(前編はこちら)
メラクに着いた日の翌朝は、昨日のぐずつきが嘘のように晴れ、澄み切った青空に眩しい太陽が姿を現しました。静かな朝の空気の中に、鳥のさえずりや牛の鳴き声が聞こえてきます。
パンゴン・ツォの岸辺まで下りてみました。常に旅行者でにぎわうビューポイントと違って、誰もいない静かな湖のほとりで、パンゴン・ツォ本来の姿を感じることができました。
この村には45世帯、約350人の人々が暮らしています。ほとんどの家は、主に日干しレンガと石と木材で造られた平屋建てで、そばには家畜小屋や高床式のトイレ(蓄積されたし尿は後に堆肥に利用します)などがあります。
手製の機織り機でじゅうたんを織る女性。生活のために必要なさまざまな仕事とともに、日々の時間が淡々と過ぎていきます。
それぞれの家で飼われている牛たちは、メラクの村人たちにとって貴重な家畜です。その牛乳から作られるバターやチーズ、ヨーグルトは、たまらないうまさでした。
メラクには3、40人ほどの子供たちがいて、村の学校に通っています。この時期はちょうど夏休みで、空き地で遊んでいた子たちがわっと集まってきて、人なつこい笑顔を見せてくれました。
冬は巨大なパンゴン・ツォすら凍りついてしまうほど厳しい環境にあるこのメラクでも、村の人々はそれがごく当たり前のように、日々を穏やかに過ごしていました。あふれるほどの商品や情報に取り囲まれて暮らしている日本での自分の生活をふりかえると、実は本当に必要なものは、そんなにたくさんはないのかもしれない、とふと思いました。
▼著者プロフィール
山本高樹 Takaki Yamamoto
著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。2016年春に著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々』の増補新装版を雷鳥社より刊行予定。
http://ymtk.jp/ladakh/