インド北部のジャンムー・カシミール州東部、ヒマラヤの西外れに位置する山岳地帯、ラダック。その少し南、さらに険しい山々に囲まれた場所に、ザンスカールと呼ばれる地方があります。チベット系民族のザンスカール人がひっそりと暮らすこの隠れ里には、遠い昔から農業や牧畜がささやかに営まれてきた村々と、岩山に屹立するチベット仏教のゴンパ(僧院)が点在しています。
平均標高が3000メートル以上に達するザンスカールでは、冬の寒さは非常に厳しく、マイナス20℃以下になることも珍しくありません。外界との間をつなぐ峠道も、冬になると積雪のため通行不能になり、ほんの時折インド軍が飛ばす大型ヘリコプター以外、外界との交通手段はなくなってしまいます。
ところが、冬の寒さがもっとも厳しい1月中旬から2月中旬までの間、忽然と現れる「幻の道」があります。山々の間を縫って北のインダス川に流れ込むザンスカール川が凍結し、その氷の上を歩けるようになるのです。「氷の回廊」とも言われるこの道を、ザンスカールの人々は「チャダル」と呼んでいます。
チャダルの旅に要する時間は、スタート地点と目的地をどこに設定するかにもよりますが、一般的に、ラダック側からザンスカールの中心地までは1週間から10日程度かかります。ザンスカールから外界に戻るには同じ道を引き返さなければならないので、往復には2、3週間かかる計算になります。悪天候や氷の状態の変化などによって、途中で数日間の足止めを食う場合もよくあります。両岸を断崖に挟まれた氷の川を歩くチャダルの途上には、村や集落のない区間も多く、ザンスカールの人々は昔から川べりの洞窟で寝泊まりしながら、この苛酷な道程を旅していました。
あらゆるものが凍りつく世界で、氷の川の上を歩いてザンスカールまで旅をするチャダルの旅は、少なからず危険を伴うトレッキングです。現地の事情に精通した、チャダルの経験が豊富なザンスカール人ガイドを雇うことが必須になります。長期間にわたるトレッキングになるため、食糧などをソリで運んでくれるポーターも雇う必要があります。こうしたガイドやポーターの手配は、ザンスカール人経営の旅行会社に依頼するのが一番です。
ラダックの中心地レーには、ザンスカール人のツェワン・ヤンペルさんと日本人女性の上甲紗智さんのご夫婦が経営する旅行会社、ヒドゥンヒマラヤがあり、チャダルの旅に関する相談にも乗ってくれます。
ヒドゥンヒマラヤ
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