シカ肉料理屋を取材したときのこと。ステーキ、煮込み、ソーセージなど、さまざまなシカ肉料理を夜に食べて帰宅。疲れ果てて布団につくが、身体が熱くて眠れない。エロスでも官能話でもなく、体内から熱が発している。どこでも寝られるタイプの私としては珍しい、悶々とした夜だった。後日、取材で一緒だった女性イラストレーターにその話をしたら、その女性も冷え性なのに足がポッポと熱く驚いたという。
また別の夏の日。夜遅くに帰宅して、冷蔵庫にあったシカ肉を炒めて食べた。味付けはシンプルにしょうゆのみ。シカ肉を肴にビールを飲み、一息ついて布団に入る。しかし、身体が熱くて熱くて眠れない。熱帯夜だからと思い、次の日の夜もまたシカ肉を食べるが、同じように眠れない。もしかしてシカ肉のせいかと疑い3日目。シカ肉を食べないで布団に入る。すると、いつものごとく5分で眠れた。
滋養強壮ある野生肉は食べると元気がわくと言われている。狩猟をする女性、狩りガールのトークライブで、「野生肉を食べると冬でも体があったかい」と話すのを聞いたことがある。この手の話は、猟師さんはもちろん、ジビエを食べたことのある人から度々聞かれる話だった。
ここ近年、国産ジビエを推奨する働きをよく見かける。野生動物による農作被害の駆除の動きと相まってだろう。しかし、そんな事情を抜きにして、とにかくジビエは旨い。スーパーマーケットに並ぶお肉では決して味わうことのできない旨味がある。
そして、ジビエがすごいのは旨さだけにとどまらなかった。2015年12月、日常的な食品のデータを公表している日本食品成分表が5年ぶりに改訂した。(文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会が調査して公表)。
そこに「にほんじか」が新たに掲載。以前の「しか」は主にオーストラリア、ニュージーランドのアカシカを試料としたものだったが、今回は「にほんじか」であるエゾシカを試料としたもの。シカ肉関係者の長年の普及活動がついに実を結んだ出来事だった。日本食品標準成分表に決定されるのは、食品として標準的に扱われているもの、つまり「にほんじか」のお肉も一般的食品の仲間入りを果たした、ということ。そして、注目すべきはその成分。
野山をかけまわり運動量が多い「にほんじか」の肉は、低カロリー、低脂肪、高たんぱくであることが数字にもしっかりと表れている。「とりのむね肉」に並ぶたんぱく質量と、ずばぬけた鉄分含有量。
肉の鉄分はいわゆる「ヘム鉄」とよばれる体内吸収しやすい鉄分。近年、脂質摂取が多く、鉄分不足の傾向にある日本人には、うってつけの食材である。
ちなみに日本人に推奨されているたんぱく質の食事摂取基準は、男性1日60g、女性1日50g(男性、女性18歳~70歳以上)、鉄分の推奨量は、男性1日7.5mg、女性1日10.5g(男性、女性30歳〜69歳)。(データはいずれも厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)概要」より) 。鉄分に関しては、月経のある女性は1回の月経で失う鉄分量が多いため、男性の1.2倍鉄分量摂取が求められている。
鉄分摂取は「鉄剤」の時代から「シカ肉」で…、になる日は近いかもしれない。 たとえばシカ肉を食事に200gほどとり入れることで、日々の必要な栄養素を効率よくとりいれられる。体内形成されないたんぱく質、必須アミノ酸もお肉には含まれている。