今回の記事は “日常フォトグラファー” 中村由布さんが4年にわたり「みなとやゲストハウス」と芦辺浦周辺を撮影したフィルム作品とともにお届けします。
子どもとの旅はやっぱり
“暮らす”に出逢う旅がいい
これまで40カ国以上を旅し、出産後も子どもを引き連れて日本全国、海外14カ国をめぐってきました。
「秘境」を求めて旅することが多かったわたしも、子どもと一緒の旅は何よりも安全第一です。スケジュールも自然とスローダウンし、同世代の子どもがいそうなお家の民泊を利用したり、友達の家を訪ねたりと、その地の “暮らす” に出逢う旅にシフト。子育てや地域活動にしっちゃかめっちゃか大騒ぎしながらも、楽しく日々を生きる人たちとの時間がとても愛しくなりました。
そして、子どもにとっても各地での友達との出逢いは格別。自分の手で人生を切り開いていくヘンテコで多様な大人たちとの遭遇も、幼い日の記憶の中に大きなインパクトを残しているようです。「あの人が住んでるあの場所」がどんどん増えていく。わたしの子育てはこうして、旅の中で進んでいきました。
アップデートする日常とともに進化し続ける
「海女と釣り師のゲストハウス」
子どもが夜中にほとんど起きなくなってからは、子ども宿泊OKのゲストハウスもよく利用するように。ゲストハウスを営む家族にもお子さんがいたり、他にもお子さん連れのお客さんがいたりと旅好きファミリーの輪が広がることもあります。
長崎県・壱岐島では、壱岐に行くなら宿は絶対にここ!と、何人もの友人におすすめされた「みなとやゲストハウス」に宿泊しました。
島で生まれ育った大川漁志さんと、偶然が重なって移住してきた香菜さんが出逢い結婚し、2016年にひらいたこの場所は、壱岐の中でも古い町並みが残る芦辺浦地区の風景を少しずつ変化させてきました。
岩手県・陸前高田出身の香菜さんは、2011年の東日本大震災のあと親戚の縁を辿って東京から長崎へ移住。もともと実家は漁師の家系で、いつしか「海女さんになりたい」と考えるようになったと言います。そうと決まればご縁はすぐにつながり、壱岐での海女修行がスタート。3年の見習い期間を経て独立し、壱岐で約25年ぶりとなる新人海女となりました。
漁志さんは東京の美術大学に進学して一旦島を離れたもののUターン。プロの釣り師、海士(男性の素潜り漁師)、料理人、デザイナーなどたくさんの顔を持ち、誰よりも壱岐の暮らしを楽しんでいる張本人。夜明け前から釣りに行くこともしばしば、お客さんをご案内したり、波があればサーフィンも。夕方になるといつの間にか宿のキッチンに戻ってきて黙々と夕食を作っています。
海を舞台に仕事をする二人の手で収穫された海産物を漁志さんが調理する、みなとや名物の夕食フルコースをお目当てに、お客さんは全国から、そして世界各国から。美味しい島の恵みを囲んで、旅人たちの会話も弾みます。
夕食の他にも、シーカヤックでの釣り体験や、ムラサキウニを自分の手で殻から割り出して味わうウニかき体験(5月限定)など、二人ならではのアクティビティも充実。もちろん、子連れでも楽しめます。子どもたちを自然と惹きつける、子どものまんまの空気を放つ漁志さんにすっかり懐いた息子は、次回は漁ちゃんに釣りを習うんだ!とやる気マンマンです。
子どもの誕生と食堂オープン
芦辺浦のまちに子どもたちの声を、もっと
みなとやオープンの翌年、香菜さんは女の子を出産。産後間もないバタバタの最中で、みなとやの近所の古民家を改修して食堂をつくるプロジェクトがスタートしました。かつて近所にあった、80歳のおばあちゃん・ケイコ姉さんが切り盛りする「千里十里(ちりとり)食堂」。小さな芦辺浦のまちの中で、そこは地元の人たちの溜まり場となり愛されていました。ケイコ姉さんが亡くなりお店は閉店してしまったけれど、みなとやに宿泊するお客さんからもカフェやランチなどの問い合わせが増えていたこともあり、自分たちが中心となって食堂をはじめることを決心。近所の子どももおとなも巻き込んでの解体ワークショップなどを経て、リノベーションしていきました。
2019年3月開店。その名も「チリトリ自由食堂」。
漁志さんが大好きで研究を重ねていたスパイスカレーがメインメニューです。
チリトリ自由食堂の横のスペースには、子どもたちがふらっと立ち寄れる場であり、周辺の空き家・空き地の調査と利活用の提案、移住相談の窓口でもある「たちまち」がオープン。大川夫妻のほか、子育てをしながらこの地で働く2組の夫婦を中心に、ご近所さんの協力のもと運営しています。
チリトリ自由食堂でランチを食べていると、観光客や島で働く人たちだけでなく、近所のおばあちゃんたちがお茶しに来たり、学校帰りの子どもたちがワァーっと集まってきたりと、芦辺浦にあたらしい日常風景が生まれつつあるのを体感します。
わたしが訪れた日、「チリトリ自由食堂」の2階では”日常フォトグラファー” 中村由布さんの写真展が開催されていました。みなとやファミリーと芦辺浦周辺に魅せられて、4年にわたりフィルムカメラで撮り続けた写真たち。今回の記事の写真はすべて、由布さんがこれまで見てきたこのまちの景色です。
中村由布さん 「 “おかえり〜”って迎えてくれるから “ただいま〜” って言いたくて、もう何度行ったかわからないくらい(笑)。漁志さん、香菜さんが次々と新しいことにチャレンジするのを傍で見ていると、やりたいことに挑戦してみることへのハードルって案外低くて、動いた先に何かがあるんだってことを気づかされます。
今回、初めて写真展をすることになったのも、二人が背中を押してくれたから。私は頭でばかり考えすぎて動けないことも多いタイプなのですが、展示のアドバイスもたくさんもらって、芦辺浦のみなさんにも見てもらえて、本当にやってよかった。壱岐に逢いたい友達も増えたし、これからもずっと撮り続けていきますよ。」
たくさんの肩書をもつ二人だからこそ、宿にこだわらない
スパイシーなアイディアがカラフルな住人を呼ぶ
オープンから4年を忙しく駆け抜けてきたゲストハウスも、2020年4〜6月は自主休業。5月はウニ漁に専念したものの、久しぶりにゆっくりと家族やご近所さんたちと過ごした香菜さんは、改めて自分の中の「好き」に向き合ったと言います。
大川香菜さん 「今まで当たり前のように購入していたものを、自分でつくれるものは自分でつくってみよう!っていう気持ちになったことをきっかけに、生活の役に立つような技術や、日常が豊かになる時間を “myfavorite~わたしの好きなもの~” としてシェアしていく会をはじめました。子ども服をつくったり、ゆっくりと朝ごはんを楽しんだりする時間を、ご近所さんやみなとやのゲストさんたちと楽しんでいけたらなって。
それと、これまでは移住や地方創生をテーマにしたイベントに呼ばれてお話しすることもあったのですが、今は自分たちでも移住相談や空き家のリサーチもしていることもあって、壱岐の食材を持って全国を回って直接つながりをつくるような場を持ってみたいっていう好奇心もむくむくと湧いてきていて。島で待っているだけじゃなくて、積極的に出逢いに行きたい!もっと勉強したい!って思いますし、おもしろい人たちが移住してきてくれたら楽しいですしね。」
自分たちの感性を第一に、スパイシーなアイディアで日常を進化させていくみなとやの魅力。その香りに吸い寄せられるように集まるカラフルな住人たち。彼らとの出逢いを楽しみに、ぜひ訪れてください。
みなとやゲストハウス
長崎県壱岐市芦辺浦258
https://www.minatoya-guesthouse.com/
※2020年4〜6月の自主休業を経て、7月1日から定員を減らしての営業を再開しています。最新情報はみなとやゲストハウスのウェブサイトでご確認ください。