猟師 瀬戸祐介さんのセトハルコン
刃物の歴史を繙く青銅製ナイフ
石から特殊鋼まで、人類が歴史の中で手にしたあらゆる素材から刃物を実作してきた瀬戸祐介さん。「狩猟と刃物」の関係を問い続けた瀬戸さんが、現在取り組む素材が自分で配合する合金「セトハルコン」だ。
セトハルコンの主な素材は、銅に錫を混ぜた青銅。銅は刃物の鋼材としては柔らかすぎるが、錫を混ぜて青銅にすると飛躍的に硬度が高まるという。
「材料に占める錫の割合を高めると硬度も高まる。しかし、同時に脆くもなる。硬度と粘り強さを両立する配合比は秘中の秘。さらに、青銅にとある金属を混ぜてより靭性を高めています。研究を重ねた結果、鋼よりずっと加工性が高く、ステンレスより硬い合金になりました」
猟に持ち出すのはセトハルコン製のトマホークとナイフ。この2本で獣を獲り、解体する。
「わなの架設ではトマホークの刃で植物の根を断ちつつ穴を掘る。獲物がかかればスパイク側で頭部を一撃。その後の処理はナイフが1本あれば十分です。このナイフは、しのぎから峰に向かって薄くすることで強度を保ちつつ軽量化を実現しました。狩猟用ナイフのデザインとして完成形のひとつだと思います」
瀬戸祐介さん
岐阜県在住。職業猟師として年間300日出猟し、多い年にはシカ、イノシシ合わせて100頭以上を仕留める。古今東西のあらゆる猟具に精通し、主催する講座では、狩猟やナイフ作りの技術を伝授している。
ネイティブ ワークス http://native-works.net/
定置網漁師 友竹 昇さんの
海水に浸けても錆びづらい特注両刃マキリ
定置網漁師が携帯する刃物が「マキリ」。刃物が必要な船上作業の多くをこれ1本でこなす。
「一般のマキリは鋼を使った片刃で、切れ味は良いものの非常に錆びやすい。そこで作り始めたのがステンレスの鋼を使った両刃のマキリでした。ガス炉を自作し、鍛造と焼入れを繰り返し、100万円近くを投じた末に出会った素材が、武生特殊鋼材の「DPSstゴールド5」。1年間海中で試用したところ、耐食性も切れ味も申し分なし。そこで本格的に製品化したのですが、武生特殊鋼材は製造卸。マキリ1本分とはいかず、最小ロットを刃物メーカーに仕立ててもらいました。その結果、できたマキリは46本。1本が3年保てば実に138年分! 当分、漁師は引退できません」
友竹 昇さん
静岡県伊東市で定置網漁業に従事。フリッパーレースやオートバイレース、潜水活動で培ったマニアックな海の技術を自身のサイト「ものまに屋」(http://monomaniya.web.fc2.com/)で紹介する。
山岳・アウトドアライター 高橋庄太郎さんの
軽さこそ性能最軽量マルチツール
現在手に入るマルチツールのうち、基本的な性能を満たしつつ最も軽量なモデルがレザーマンの「スクォートPs4」だ。
「僕の登山では、大きなナイフが必要になる場面はほとんどありません。その代わり、食料の袋を切ったりするのにハサミをよく使う。実際の使用頻度では、ハサミ5、ナイフ4、プライヤー1といった割合でしょうか。しかし、出番が少なくてもプライヤーの機能は欠かせない。『小さいものを力強く掴む』という作業は、刃では代替できないからです。刃とプライヤーはそれぞれを補完しあいます」
高橋庄太郎さん
長距離・長期間の縦走を偏愛。山行の記録や野外道具のレビューを発表するほか、自身でもアウトドア用品をプロデュースする。著書に『トレッキング実践学 改訂版』(枻出版)など。
問い合わせ レザーマンツールジャパン0575(23)5103
(BE-PAL 2020年6月号より)