北極冒険家 荻田泰永さんの
極地を生き抜く二刀流
「荷物が限られ、補給もできない旅では道具として機能するかどうかが重要。ブランドにはまるで興味がないが、結果としてレザーマンのナイフとプライヤーを1本ずつ使っている。旅の足となるスキーの調整には、プライヤーのドライバーが必須。道具が壊れたときもプライヤーで修理しつつ旅を続ける。ナイフは主にスキーに張り付く氷を削り落とすのに使い、ときには銃で獲った獲物の解体も行なう。プライヤーは錆び付くと新しいものに替えているが、ナイフはもう10年ほど使っている」
荻田泰永さん
カナダ北極圏やグリーンランドを中心に単独徒歩の冒険行を続ける。2018年には日本人初の南極点無補給単独徒歩行に成功。著書の『考える脚』(カドカワ)で第9回梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。
川漁師 平工顕太郎さんの
川漁を支える日本の作業ナイフ
今も川と生活が密接に結びつく長良川流域。この地で数少ない専業の若手川漁師として生計を立てるのが平工顕太郎さんだ。
「私が川漁の相棒としているのが木造の和船。操船に使う櫂にはアカガシ、棹にはマダケを用い、この棹尻にはサカキをはめ込んで補強します。これらの木製の道具の微調整に使うのが日本の汎用ナイフ、肥後守です。船具の調整はもちろん、肥後守は網に引っかかった魚やゴミをはずすのにも都合が良い。細長い刃は網の糸を切ることなく、網の目に滑り込んでいく。スピード感が重要で神経を使うアユ漁ではこの軽快さが重宝します」
平工顕太郎さん
長良川漁業協同組合総代。「結いの舟」(https://www.yuinofune.net/)の代表として天然のアユやモクズガニなどの販売・加工を行なうほか、和船を使ったツーリズム事業や環境教育も展開する。
サバイバル登山家 服部文祥さんの
名門の技術を結晶切れ味絶佳の山包丁
「鋸も携えるなら、山に持ち込む刃物は包丁がいい。薪づくりを鋸が担えば、残る刃物の出番は調理がメインになるからだ。刃が薄い包丁は使いやすく怪我もしにくい。愛用する木屋のペティナイフは、鋭利で錆びにくく、硬さも十分。肉も魚も山菜もよく切れる。クマが目の前で滑落死したときは、これで解体して肉を持ち帰った。今使っているのは2代目で、初代は大学入学時に母から贈られたものだった。これに倣って、大学生になった長男に同じものを贈った。次男と長女の独立に備えて、同じものをあと2本しまってある」
服部文祥さん
登山家。作家。1996年にK2に登頂。それ以降も登山を深め、食料を現地調達しながら行動を続ける「サバイバル登山」を実践している。『ツンドラ・サバイバル』(みすず書房)、『息子と狩猟に』(新潮社)ほか著書多数。写真/亀田正人
シーカヤックガイド 赤塚義之さんの
海人御用達!南海の作業刀
「八重山諸島の釣具店や漁協の資材部で買える汎用ナイフを使っています。価格が2000円弱なので使い捨てるつもりで買ってみたら、海水にさらしても錆びず、よく切れる。『これでいいや』と買ったものが、いつのまにか『これがいい!』へと変わっていました。ブレードは細長いですが、硬いハタの頭骨を割れるほどの強さがあり、50㎝程度の魚なら簡単に三枚におろして刺身に引ける。島の中には、長いブレードを生かしてイノシシの止め刺しに使う人も……。そして、価格が安いので藪払いのような作業にも気軽に使える。水辺の旅のお供にぴったりの実用ナイフですね」
赤塚義之さん
バジャウトリップ代表。各地のシーカヤックサービスで修業したのち西表島で開業。少人数制のキャンプツアーを展開する。得意技は素潜りでの魚突きと漁獲を使った野外料理。冬季はわな猟も行なう。
※構成/藤原祥弘 撮影/矢島慎一
(BE-PAL 2020年6月号より)