今、全国でシカが急増し、人との間にしばしば軋轢を起こしていることは、『BE-PAL』読者ならご存知だろう。だが急増の原因は? 影響は? 解決策は? と問われ、的確に答えられる人はなかなかいない。
たとえば、現実的な「解決策」としては「柵を作って入れないようにする」、「有害動物として駆除する」などは誰でもすぐに思いつくが、それは本当に解決策なのか?
本書は生態学の視点から、シカと人間を取り巻く諸事情をひとつひとつフィールドワークやデータによって検証する。勢い細かい数字もかなり出てくるので、シカ急増について裏付けや根拠を知りたいという人にはよい資料になるだろう。ただし、以前より緻密になったとはいえ、たとえばシカの生息数の推定ひとつとっても、まだ生態学には課題が多いことも告白されている。先にあげた駆除も、まだまだ自信を持って行えるほどのものではなかったのだ。
しかし読んで行く過程で、私たちがいかにシカのことを知らないのに驚かされた。たとえば袋角って何? シカの最大の死因は? シカの食害増加によって増える昆虫は? シカの急増が、植物はもちろん昆虫や鳥類の増減に影響を与えたり、土砂崩れの増加まで招くように、シカは日本の生態系にかなりのダメージを与えているという。そして最大の原因は、私たち自身の選択の結果だったことも。
シカ問題は、そもそも自然とは何かという根本問題まで私たちに突きつけているのだ。
『シカ問題を考える』
高槻成紀著
ヤマケイ新書
800円+税
文/三宅直人