引きやすくわかりやすい図鑑を使って
「生き物と植物」を知ろう
生きものの名前を知ることは、自然と親しくなるための第一歩。それに欠かせないのが図鑑だ。分野ごとにお薦めの一冊を紹介します。
推薦者 三宅直人
生きものに興味が出てくると、図鑑が欲しくなるのは自然の流れだが、そういう場合によく尋ねられる。「これ一冊持っていればOKという図鑑はありませんか」。気持ちはよーくわかるが、何でもかんでも載った図鑑は重くなるだけでなく、初心者には詳しすぎて却って調べにくくなる。そこでこの特集では、身近で見られる種に絞って掲載したものや、初心者でも調べやすい工夫が凝らされているもの、興味の対象の全体像が把握できるような図鑑を選んでみた。
最近の図鑑には優れた生態写真が使われ、他種との違いを示すために部分アップを別個に入れたりするのが普通になっている。解説も基本データに加えて名前の由来やエピソードなども書かれていることが多く、眺めたり読んだりするだけでも楽しい。また、たとえば葉の形や花の色から探せるように工夫されたものもある。引きやすさ重視か、識別重視かなど、自分の目的に合ったものを選びたい。
しかし使っているうちに、やがてその図鑑に物足りなさを感じてくるだろう。だがそれは、あなたの成長の証し。迷わずワンステップ上の図鑑に進もう。
淡水魚
生態写真+標本写真で細部までわかる『くらべてわかる淡水魚』
地味で見わけの難しい種が少なくない日本産淡水魚を、直感でどこまで見分けられるかという課題に挑戦した図鑑。生きているときの色彩や体の動きがわかるような生態写真とともに、ヒレを広げた状態で真横から見た標本写真を全種掲載。分類別だが、形の似たものは極力同じページにまとめられているので比較が容易。種によっては背面や幼魚の写真も加えられ、さらに写真ではつかみにくい特徴を矢印で引き出して説明するなど、行き届いた構成が素晴らしい。純淡水域や河口などに生息する身近な淡水魚120種を収録している。
昆虫
触角や脚の先まで鮮明な写真で勝負
『ポケット図鑑 日本の昆虫1400①チョウ・バッタ・セミ』
昆虫図鑑の難しいところは、生態写真では見えない部分が多くなりがちなこと。一方標本写真では生時の色がくすんだり脚が縮んでいたりするが、この図鑑では生きたままの虫を白バックで撮影してあり、細部までよくわかる。似た種同士では、違いが明確にわかるように部分写真を入れ、引き出し線を使って説明し、雄雌の違いにも言及。昆虫は日本産だけでも3万種以上いるが、本書では731種、②トンボ・コウチュウ・ハチでは660種に絞って収録。それでも初心者には十分。文庫サイズで重さは300gと携帯性も高い。
生物・植物
水ぬれに強い紙で作られた実践向き図鑑『海辺の生きもの図鑑』
魚類から甲殻類、軟体動物、イソギンチャク、ヒトデ、クラゲ、海藻、海浜植物まで、生き物のデパートのような海辺に生息する300種以上を収録。収録数は多いとはいえないが、初心者なら十分。海辺での使用に対応して、はっ水性の高い紙で作られているところが新しい。解説はシンプルだが、その種の注目点を示したり、すみかや探し方のコツなどをコラムで解説。ページの端に付いた目盛りで大きさを測ったり、観察日時を記録したりできる。重さ172gと持ち運びも苦にならない。
植物
初心者でも葉の形をたどって調べられる『くらべてわかる木の葉っぱ』
3本の葉脈が目立つ、枝先に葉が集まる、香りのある葉など、まず葉の特徴に注目し、そこから似た形の葉を見分けていく樹木図鑑。その過程で、鋸歯や蜜腺、葉柄など識別の着目点も自然に覚えられる。写真は、立体感も失われておらず実物大のものが多いので、絵合わせがしやすい。樹皮や葉の裏側、花や実の追加情報も含めて判断すれば、初心者でもかなりのところまで見分けができる。花のない時季でも分類体系を知らなくても引けるところがすごい。身近な樹木550種を収録。
生物・植物
田んぼという環境の見直しにも役立つ『ポケット図鑑 田んぼの生き物 400』
掲載された400種のうち約半数が植物だが、その中には以前は普通種だったのに最近は姿を消しつつあるものも含まれている。その意味では、図鑑であると同時に田んぼという環境が変化していることを学べる本でもある。貝の仲間が21種、両性爬虫類が30種という多さにも驚かされるだろう。魚類、昆虫、甲殻類、鳥類も収録。またユスリカやチョウバエの幼虫、ハリガネムシ、ヒドラ、ホウネンエビ、ミズムシなど本書以外の図鑑では登場しにくい生きものにも目配りされている。
※構成/麻生弘毅
(BE-PAL 2020年7月号より)