自然と共生する技術や思考。「民俗学」を知る写真集&図鑑8選
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  • 2020.11.02

    自然と共生する技術や思考。「民俗学」を知る写真集&図鑑8選

    私が書きました!
    推薦者
    かくまつとむ
    1960年生まれ。本名の鹿熊勤との両方の名で、自然と人間が関係する領域を取材。近著に『仁淀川漁師秘伝』(ヤマケイ文庫)

     

    人の営みを記録したものが民俗学。かつて人は自然とともにあった。
    その関係の歴史はアウトドアのヒントに満ちている。

    ハイキングやキャンプのような海外から入った余暇活動に、日本伝統の山菜採りや釣りのような娯楽を加えたものがアウトドア。そういう定義がなんとなく定着したのは40年ほど前だ。でも、実際にはもっと多彩な要素が含まれていると思う。

    私個人の定義は「自然と共生する技術や思考を楽しみに昇華させたものがアウトドア」。そう思うようになったのは、民俗学に興味を持ってからだ。

    たとえば縄文土偶は女性像、それも妊婦を思わせるものが多い。今以上に生殺与奪の権利を持っていた自然という存在への敬虔な祈りとは考えられないか。縄文といえば普通は考古学の領域だが、私の中では分断されていない。釣りや狩猟も、山菜採りも、家の建て方、繊維の編み方も、みんな縄文時代には原型ができていた。縄文はまた、自然資源の限界を理解し謙虚に分かち合う、今でいうSDGs社会でもあった。そうした知恵は、時を経た農山漁村の民俗の中にも脈々と受け継がれてきた。

    興味の枝が多いほど人生は楽しくなる。民俗学という知の森のおかげで、私は生涯、退屈を知らずにすみそうである。

    食文化:
    知的で美しく、少し切ないウナギの博物誌

    『旅するウナギ 1億年の時空をこえて』

    少し前まで、ウナギは無限の資源であるかのように消費されてきた。国も国民も、数字が暗示する危機より根拠のない希望を支持し続けた。結果、ウナギは絶滅危惧種になった。本書は乱獲と環境破壊に魚類世界的に減っているウナギ属の保全を訴えるウナギ学者たちが編集したものだが、ユニークなのは生物学や告発に終始していないことだ。さまざまな学問領域からウナギのトピックスを選び出し、歴史を縦軸、生活文化を横軸に人間との関係性を浮かび上がらせている。採用されている写真や絵図が非常に美しい。世界に誇れる博物誌だと思う。

    黒木真理・塚本勝巳著 ¥3,800 
    2011年 東海大学出版会刊 278㌻ 26×19㎝

    技術:
    かつての浜には魚の種類だけ漁法があった

    『漁の図鑑 伊勢湾・志摩半島・熊野灘の漁具と漁法』

    漁業は縄文時代から存在し、しかも驚くべきことに今も社会の主要産業のひとつだ。だが、現代に向かうにつれて漁法の淘汰は急速に進み、技術としての多様性は失われている。そんなことを感じたのは、本書を最初に手にとった20年ほど前だ。伊勢志摩・熊野灘海域に絞った記録だが、人と魚の知恵比べというのはこんなにもあったのかと驚かされた。現代では"猫またぎ"と呼ばれるボラは、かつては伊勢参りの精進落としの象徴で、その水揚げは浜の経済を左右した。気づかされるのは、昔と今の魚との距離感である。

    ¥3,000 1988年 海の博物館編 海の博物館刊 
    131㌻ 25×25・8㎝ 

    先史:
    縄文はアウトドアのルーツである

    『新版縄文美術館』

    持続可能な社会へのヒントとして再評価されている縄文時代。本書は各地の縄文遺跡の出土品を、現代的なライティングと構図で美しく撮影した、いわば縄文写真集だ。タイトルも美術館となっているが、意図自体はもっと深いところにあるように思う。文字がない時代の研究は、出土したモノを見て解釈するしかない。だが、モノの見方や考え方は人それぞれ。その"余地"に縄文学の楽しさがある。ハンターやクラフト愛好家の視点で見ても、きっと面白い発見がある。

    小川忠博(写真)・小野正文・堤隆(監修) 
    ¥3,000 2018年 平凡社刊
    240㌻ 24.5×18㎝

    暮らし:
    持続可能性のヒントは昭和の農山漁村にあり

    『里山・里海暮らし図鑑』いまに活かす昭和の知恵

    環境民俗学という言葉が登場したのは’80年から’90年代だったと記憶する。本書は、高度経済成長以降ホコリをかぶりつつあった農山漁村の民俗記録を、生物学や生態学、エネルギー循環、あるいは社会学など、複数の視点から再評価した快著だ。共通のテーマは持続可能性。「いまに活かす昭和の知恵」という副題にこの研究の意味と著者の思いが凝縮されている。里山の鳥獣や山菜、薬草は、半ば人間が養ってきた存在といった論など、目から鱗のものの見方もたくさん。

    養父志乃夫著 ¥9,500 
    2012年 柏書房 
    384㌻ 26.5×19㎝

    共生:
    美しく調和的な養蜂家の暮らしと人生

    『羽音に聴く蜜蜂と人間の物語』

    外敵に襲われたときのために毒針は持つが、植物とはギブ&テイクの関係で共進化してきたため、強い毒素を分解する酵素を持たない。ゆえにミツバチは、農薬などの化学物質に極めて弱い生き物として知られる。自然界のポリネーター(受粉役)、環境のバロメーターとしても注目度が高まっているミツバチと、平和的に暮らす人々が養蜂家だ。飼育技術を伝える本はたくさんあるが、本書は養蜂家たちの生き方を印象的に切り取った小さな写真集。空気感がひたすら美しい。

    芥川 仁著 ¥2,400 
    2020年 共和国刊 
    86㌻ 19×15.5㎝

    かっこいい爺さん(若者)養成テキスト

    『つくって楽しむわら工芸』

    縄綯いなら子供のころからできる。しめ縄も作ったことがある。でも、卵を包む「つと」や亀の縁起飾りの作り方は見当もつかない。いつか本格的にやってみたいわら細工。その日のためのテキストだ。

    瀧本広子(編)・大浦佳代(取材・執筆) 2016年 ¥1,800 農文協刊 
    80㌻ 25.7×18.2㎝

    わかりやすいイラストと簡潔な解説

    『絵引民具の事典 イラストでわかる日本伝統の生活道具 普及版』

    かつて日本には数えきれないほどの道具があった。暮らしのための道具。仕事をするための道具。地域が変われば、形も呼び名も変わる。そんな民具の用途や来歴を、イラストとともに解説。

    工藤員功(編)・中林啓治(作画)・岩井宏實(監修) ¥3,000 2017年 
    河出書房新社刊 487㌻ 21×15㎝

    歩く巨人、宮本常一の写真観を知る

    『宮本常一と写真』

    生涯の多くを民俗調査という旅の空で過ごした宮本常一。携えていたのは小型カメラだ。写真は彼が最も重視した記録だった。宮本が残した膨大な写真と視点、その意味や読み方を、4人の専門家が論じる。

    石川直樹・須藤・功・赤城耕一・畑中章宏著 ¥1,600 2014年 平凡社 
    128㌻ 21.5×17㎝

    ※撮影/永易量行
    ◎紹介している本の書誌情報は、すべて発行当時のものとなります。
    (BE-PAL  2020年7月号より)

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