遠くの他人事としてでなく、自分事に置き換えて。
写真集をどのように読んでいるかをたずねると、北極冒険家の荻田泰永さんは「自分事に置き換えて」と即答する。そして、植村直己さんが犬ぞりを率いて乱氷帯を越える写真を指さした。
「これなどははっきりと身に覚えがあり、他人事ではない(笑)」
そして犬ぞりはそのつなぎ方に地域差があるためエリアを特定でき、犬の数が多ければ、その地方に、エサとなるアザラシを効率よく仕留められるライフルが普及した後だとわかるという。このように、荻田さんは自身の経験と照らし、写真集を深く読み込んでいる。
「これはホッキョクグマを撃つための銛です」
古い写真に手を止める。
「15年ほど前、70歳くらいの老人に聞いたんです。俺のじいさんのころは、銛でホッキョクグマを倒していた、って」
犬に追われ、立ち上がったホッキョクグマの心臓をめがけ、肋骨の間を抜いて銛を撃つ――。
「ぼくは銃を持って冒険をしているので、彼らと出会っても比較的、落ち着いていられるのですが、銛ひとつでは……」
古い写真にこめられた思いを、彼の地を知る冒険家は、重く受け止めている。
野生動物:
物事を成し遂げる、鬼気迫る情熱に共感
『BEAR 火と水の国カムチャツカの生命』
「なんといっても、ワイドレンズで近距離から撮ったこの写真! この一枚を撮るためにヒグマを観察し、信頼関係を築き、徐々に距離をつめる……望遠レンズで撮った写真にはない重みがありますよね」
岡田 昇著 ¥5,400 1994年
情報センター出版局 94㌻ 27×37㎝
冒険:
冒険を繰り返すほど、重みが増す一冊
『HOMAGE TO NAOMI UEMURA 植村直己記念館』
「40年以上前の北極の様子……植村さんや先住民の装備や服装、氷の状態や風向き、強さなどに注目してます。植村さんが現地で誠実であったからこそ、北極の人々が今のぼくらを迎え入れてくれるのだと思います」
文藝春秋 ¥7,000 1991年 205㌻ 21.8×30.4㎝
野生動物:
白いオオカミ、その生態に迫る
『White Wolf: Living With an Arctic Legend』
「表紙の写真からして不思議。この後、どうするんだろう? ジャコウ牛の群れを追うシーンも印象的で、いつかこんな場面を見てみたいですね」
ジム・ブランデンバーグ著 $19.95 1988年 Northword Pr 160㌻ 31.8×24.8㎝
北極:
古の北極を知る、貴重な一冊
『ARCTIC VISIONS PICTURES FROM A VANISHED WORLD』
「植村さんより前、’60年代以前の北極が写された写真集。見慣れている地形が現われたり、犬ぞりのつなぎ方で撮影地を想像したり……飽きることがありません」
Fred Bruemmer著 $45(can) 2009年
Key Porter Books 279㌻ 29.2×28.6㎝
北極冒険家:荻田泰永さん
20年にわたり、北極で冒険を繰り返す。昨年出版した『考える脚』(KADOKAWA)が「梅棹忠夫・山と探検文学賞」を受賞。
※構成/麻生弘毅
◎紹介している本の書誌情報は、すべて発行当時のものとなります。
(BE-PAL 2020年7月号より)