「原始の火」をおこしてみよう!
「木を擦り合わせて火をおこすという知識は知られていたけれど、実態としての技術は欧米や日本では衰退していたんです」
関根秀樹さんはリズムよく堅いケヤキを削ってゆく。北米先住民の消えゆく術を基にしたボーイスカウトの手法や、日本の神道の発火技術は実用性を失い、形骸化していた。
「そんな古代の火おこし術を甦らせたのが、岩城正夫先生です」
同教授から火おこしを学んだ関根さんは志を継ぎ、古今の文献を調べて研究を深め、その術と楽しさを世に伝えている。
さっそく弓ギリ式発火具の作り方を教わる。ハンドピースと火きり棒に使うのは堅い木、弓にはしならない材を、カートリッジは、中央が空洞になっているウツギや、髄になっているアジサイ、キブシなどを選ぶ。
「そうでないと、すり減るとともに先が尖ってゆき、煙は出ても火が着かないんです」
それではと弓を引くと、たちまち煙が出て点火。その間、わずか5秒! 心の準備ができる前の早業だった。ならばと取材班も弓を取る。火きり板の穴の真上に左膝の先端を置き、左手を膝にあて、固定しながら弓を引く。はじめはうまくいかないものの、楽な姿勢と力の配分に気づいてゆく。同時に、火きり棒がまっすぐであり、ハンドピースとの接点が円滑に回ることの重要性が、動作を通じて理解できた。そうして弓を動かすこと30秒、しだいに煙は大きくなる。生まれたばかりの火種を火口に包んでくるくるくる……!! その瞬間、奥底を揺さぶるような情動が駆けめぐる。この感覚は、いったい……。見上げると、にっこりうなずく関根さん。
「いまおこしたその火は、数千年前の縄文人がおこした火と、なんら変わらないものですよ」
トルネード式火吹き竹を作ろう
所要時間 約15分
材料
竹(φ4㎝ほど)、節を抜くための棒(φ1.5㎝ほど)。
道具
のこぎり、ナイフ、サンドペーパー(#80、150、280、500、10
00、2000、4000)、火箸、ペンチ、雑巾。
STEP1
竹を切り、節を抜く
竹を45㎝ほどの長さに切る。このとき片方は節で、他方は節から5㎝ほどの位置で切断。
棒をたたき込むようにして「すべての節」を抜き、ナイフで整える。
STEP2
吹き込み口を滑らかに整える
ナイフで内側を削ったら、サンドペーパーで凹凸をなくし、滑らかになるまで磨き込んで、空気を通りやすくする。
STEP3
火にかざして水分と油を抜く
竹の表面の汚れを取り、長もちさせるため、焚き火か炭火でゆっくりあぶる。水蒸気が噴き出し、油が滲んでくるので、雑巾などで拭き取る。
STEP4
吹き出し口付近に吸引口をあける
ナイフと熱した火箸を使い、先端付近に吸引口を3~4か所、図のようにあける。吸引口からの誘引気流が竜巻状にねじれて風勢を増す。これが「トルネード式」の真骨頂!
完成!
口をつけずに吹く東南アジア式をもとに、流体力学のコアンダ効果(粘性流体の流れが、物体にそって曲げられる現象)などを応用。呼気の数倍の強い風を楽に遠くまで送り出せる。
弓ギリ式発火具を作ろう
所要時間 約30分
材料
ケヤキの枝(右から❶φ2×22㎝、❷φ3×22㎝、❸φ1×50㎝)、アジサイの枝(φ1㎝)、スギ板(厚さ1㎝)、綿の紐(55㎝)。
道具
のこぎり、ナイフ、彫刻刀、たこ糸、ペンチ、木工ボンド。
STEP1
火きり棒を作る
❶ ケヤキの枝①の中央に、カートリッジ(アジサイ)を差し込む穴(深さ2㎝)を開ける。
❷ 先端部が割れないよう、たこ糸を巻いてボンドで固着。本体は七~八角形に削る。
❸ カートリッジ用のアジサイを、❶であけた穴にきつく入るよう、ナイフで削る。
❹ 緩んでぐらつかないように❷を押し込む。火きり棒はまっすぐな素材を選ぶことが重要。
STEP2
ハンドピースを作る
ケヤキ②を使い、回転する火きり棒を押さえるハンドピースを作る。
火きり棒に合わせて②に穴をあける。火きり棒の上端はなめらかに回転するよう、丸く削る。
STEP3
火きり板を作る
スギ板に60~90度の切り込みを入れ、その頂点から2~3㎜奥へ左右に斜めの傷をつけ、表面を削り取る。
STEP4
弓を作る
ケヤキ③の両端に穴をあけ、綿の紐を通して玉結びで固定。紐の長さは、火きり棒を2回巻いてゆるまないくらい。
火をおこそう
所要時間 約5分
材料
生み出した火種を焚き火へと育てる火口。左上からゼンマイの綿、下が解いた麻紐、スギの枯葉、シュロの樹皮繊維。
STEP1
弓を前後に動かす
火きり板の下に葉っぱを敷き弓をセット。ハンドピースで押さえながら前後に動かす。
STEP2
わずか5秒で点火!
煙とともに、焦げた木粉がV字の隙間に。木粉の火種を葉っぱにのせる。
STEP3
火種を育てる
ゼンマイ綿や麻をシュロで包み、鳥の巣状に。火種をゼンマイ中央に落とし……。
STEP4
くるくると回す
火種を包み込んだ火口の端を摘まみ、くるくると回すと、たちまちめらりと着火!
※構成/麻生弘毅 撮影/田渕睦深
(BE-PAL 2020年8月号より)