インド北部の険しい山岳地帯にあるチベット文化圏、ラダック。平均標高が3500メートルに達する厳しい環境の中で、この地に暮らす人々は遠い昔から、家畜と人の手による伝統的な手法で農業を営んできました。今回は、僕がかつてラダックの人々の畑仕事を手伝いながら、その伝統的な農業のスタイルを身をもって体験した様子をご紹介します。
長く厳しい冬が明け、4月から5月頃になると、ラダック各地の村では、麦や豆、野菜などの種まきが始まります。畑を耕す時は、ヤク(毛長牛)と牛の混血種であるゾに鋤を結わえ付け、朗々と歌を歌いながらゾをあやつって耕していきます。聞いた話だと、ゾは農夫たちの歌の意味をちゃんと理解しているのだとか。
ゾに畑を耕させた後にできた溝に種をまき、T字型の棒で土をならして埋めていきます。種まきはとてもシンプルですが、根気のいる作業です。
種まきの時期が終わってから、ほんの2カ月ほどで、土気色だった畑は鮮やかな緑に覆われるようになります。7月から8月頃になると、早くも収穫の時期の到来です。ラダックの夏が本当に短いことを実感します。
ラダックの中でも少し標高が低めの村では、アンズなどの果物が栽培されています。アンズはそのまま生で食べるほか、開いて種を取り出して干しアンズにもします。取り出した種は中の杏仁を食べたり、絞ってオイルを作ったりもするのです。
麦の収穫の時期になりました。一面、黄金色の穂で覆われた麦畑。ラダックの中でも、東の方にある村では鎌で麦を刈り取りますが、西の方の村では手でつかんで引っこ抜くというやり方をしていて、狭い地域の中でもスタイルが異なるのが興味深かったです。