「一度コツさえつかんでしまえば、野にあるものだけで火をおこすのはそんなに難しいことではありません」
というのは、鹿児島の山村で自給的な暮らしを楽しむ「テンダーさん」。20代のころに北米先住民の生活技術を教える「トラッカースクール」で講義を受け、火おこしの技術を自分のものにした。
テンダーさんが住むのは電気・ガス・水道の契約をしていない古民家。水は沢水、電気は太陽光発電、火は裏山の薪からまかなっている。
「そんなわけで、わがやでは料理に風呂焚きに、毎日火が燃やされています。着火にマッチを使うこともありますが、技術のおさらいがてら私は日常的に火おこしを楽しんでいます」
日々の生活のなかで焚き火術を深めるうちにテンダーさんはあることに気がついた。
「北米に比べて日本は湿度が高い。じつは、火おこしにおいては、使う材料に含まれる水分量が大きく影響するんです。よく乾いている材料を集められるかどうかが、火おこしの成否を左右します」
そういってテンダーさんが案内してくれたのは、近所の空き地。ここから火おこしの素材を集めだすという。
「ここで、火おこしに必要なふたつの素材のひとつ『火きりぎね』を採集します。といっても、そんなに特殊なものではありません。日本中、どこにでも生えているセイタカアワダチソウの茎を使うんです」
草むらに入ったテンダーさんは、立ち枯れたセイタカアワダチソウを吟味。直径1センチほどで、まっすぐな1本を手に取った。
「茎がカーブしていると、手で回転させたときに遠心力でブレてしまう。なるべくまっすぐなものを選ぶのが重要です。火きりぎねに向いているのは、繊維がしっかりした中空の草の茎。ウツギ類やヨモギ類も適した素材ですね」
火きりぎねを選びながら、テンダーさんはなにやら枯れ草をポケットに突っ込んでいく。
「いま集めているのは、おきたばかりの火種を包む『火口(ほくち)』。枯れた植物の花や穂など、なるべく繊維が細いものが適しています。これを枯れたイネ科の植物の葉などで包んでボール状にして、その真ん中に火口を入れるんです」
続けて、『火きりうす』の材料を探す、といってテンダーさんが入っていったのはスギの林。
「火きりぎねと摩擦する火きりうすは、スギが適しています。しかし、地面に落ちている枝は湿っていたり、腐っていたりする。地面から離れた立ち枯れから適当なものを選びましょう」