虫のヒミツを知るには、飼うのが早道! ストレスなく暮らせる環境を用意して、長生きさせよう!
<用意するもの>
・ケース
市販のプラスチックケースでOK。ただし蓋がゆるいと虫の力でも開いてしまう。購入時には堅さを要チェック!
・とまり木&餌
餌台を兼ねる幅広なとまり木を数本入れる。餌は市販の昆虫ゼリーが使いやすい。栄養価も高く、小バエも寄せづらい。
・飼育マット
朽ち木を粉砕した市販の昆虫マットが最適。土や砂と比べて密度が小さいので昆虫が潜りやすく、適度な保湿力がある。
夏の公園で繰り広げられるのが、虫を飼いたい子供と持ち帰りたくないお母さんの攻防だ。
「お母さんは家に虫を入れたくないかもしれないけれど、興味こそ子供の学びの原動力。虫を飼って図鑑を与えれば、好奇心から子供は自主的に学んでいく。今は清潔に飼育できる道具も揃っているから、嫌悪感をぐっとこらえて一緒に楽しんでほしい」
とは奥山英治さん。日本野生生物研究所代表だ。
「そうはいっても、家庭で用意できる設備ではトンボやセミ、チョウの成虫は飼えない。飼いやすいのは甲虫やバッタ類など。トンボやチョウでも、幼虫なら飼うのは難しくないよ」
基本の飼育セットはケースと隠れ家と餌。初心者は掃除しやすさを意識すると無理がない。
「そして飼育ケースはできるだけ目に付く場所に置きたい。常に視界にあると、羽化、産卵などのイベントを見逃さないから」
虫の飼育において配慮したいのは、逸出と遺伝子の撹乱だ。
「徒歩圏内で採ったチョウの幼虫を育てて、成虫になったら放す程度ならいいけど、数十〜数百km離れた場所の虫を別の場所に逃すのは良くない。地域の遺伝子を撹乱したり、ウイルスを広める危険性がある。一度飼育を始めた生き物は最後まで責任を持って飼うのが基本です!」
カブトムシ・クワガタを飼う
カブトムシとクワガタは飼育しやすい昆虫の代表。飼育道具も充実しているので累代飼育(飼育下で何世代も繁殖させること)も楽しめる。
清く、正しく、たくましく!
カブ・クワ飼育の基本
セットを日光消毒
使用の前にマットは袋のまま、とまり木や産卵木は黒い袋に入れて炎天下に置く。高温で中に潜むダニなどを殺す。
入居前にきれいにお掃除
採集個体には虫の体液を吸って弱らせるダニなどがついている。飼育下では増えやすいので歯ブラシで取り除く。
夏は虫も水分補給
飼育ケース内部が乾燥すると虫の体から水分が奪われて弱る。マットが乾いたら、霧吹きで全体を湿らせる。
足場は全体に
転倒したままもがき続け、斃死するのが死因のナンバー1。転んでも脚が届くようにとまり木や小枝を散らす。
オスは少なめに
色(メス)と欲(餌)を全力で奪い合うのがカブ・クワの本能。オスを多く入れるとお互いに傷つけあって弱る。
密は避ける
虫の密度が高いと他の個体とぶつかり合って疲弊する。20×25×30㎝程度の中型ケースなら2ペア程度に。
小バエは紙で防ぐ
餌に寄ってくる小バエは、ケース本体と蓋の間に新聞紙などを挟んで防御。通気性の高い専用のシートもある。
産卵させる
メスは晩夏にマットに産卵するので卵を回収。昆虫マットを入れた別のケースに移し、孵化した幼虫を育てる。
クワガタには産卵木を
クワガタの飼育方法はカブトムシと同様。ただし、クワガタは朽ち木に産卵するので、産卵させるならケース内部に直径15cmほどの朽ち木を入れて飼育する。
幼虫はビンで飼うと楽しい
初冬になったらマイナスドライバーなどで朽ち木を解体。幼虫を回収して、クワガタの幼虫用マットを詰めたビンで飼育する。脱皮や羽化などがガラス越しに観察できる。
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キリギリスやバッタを飼う
キリギリスやバッタの仲間には完全に草食のものと、肉食もする雑食性のものがいる。共食いにだけ気をつければ、入門者は雑食性の虫のほうが飼いやすい。
蓋は必須!!
右:産卵用の土
オスとメスを一緒に飼ったり、発生後期のメスを捕獲してくると産卵する可能性がある。産卵場として土を入れたケースを置いておく。
左:エサ兼隠れ家の草
隠れ家にはイネ科の草を鉢にとって入れるか、刈った草を水に挿して入れる。ある程度嵩があると虫が安心する。そのまま餌にもなる。
草地の鳴く虫の代表選手、キリギリスも雑食性。餌が不足したり、動物質が足りないと共食いをすることも。野菜を軸に煮干しやペットフードを与えて、動物質を常に補う。
チョウの幼虫を飼う
チョウの幼虫は食草を瓶に挿すだけで飼える。ただし、蛹になる前に場所を探して歩き出すので、成長したら食草ごとケースに入れる。寄生蜂からの防御にもなる。
食草
幼虫がいた草木を持ち帰る。幼虫は大食漢なので飼育するのは1、2匹にとどめないと食草の調達で苦労する。
終齢幼虫は箱入り
水生昆虫を飼う
水生昆虫の多くは肉食。水が汚れやすいので掃除しやすいセットを組む。足場になる水草や枝を入れ、タイコウチのような体液を吸う虫や動くものを食べるヤゴには生き餌を、死肉を漁るゲンゴロウには煮干しなどを与える。
水交換はサイホンの原理で行なうと簡単。水を満たしたホースの片口を水槽に入れ、もう片口を水底より低くすると水圧で水が抜ける。
水槽で水生昆虫を混泳させると、体液を吸うタイプの虫がほかの虫を食べてしまう。大切に飼うなら、ひとつの水槽に1匹だけにする。
水入りの容器だと溺れるので、持ち帰る際はプラスチックケースに濡らした水草を敷いて収容する。ムレに弱いので高温にも注意する。
※水生昆虫には数を減らしている種もあるので、地域の資源量に配慮して採集しましょう。
※構成/藤原祥弘 撮影/矢島慎一、法師人 響(ギンヤンマ)
(BE-PAL 2020年9月号より)