縄文貝塚が象徴するように、人は昔からゴミを出しながら生きてきた。けれど現代は異常すぎ。このままだと地球はゴミでパンクする。どうすればいい?
翻訳家、ゼロ・ウェイスト・ブロガー 服部雄一郎さん (43歳)
1976年生まれ。東京大学総合文化研究科修士課程修了(翻訳論)。アート系の会社から転職した葉山町役場でゴミ担当に配属されたのを機にゼロ・ウェイスト生活を始める。’14年高知県香美市に移住。
服部雄一郎さんのホームページhttp://sustainably.jp
ゴミ問題の本質は資源の浪費。まずは蛇口を絞る
カリフォルニア在住のフランス人女性が、家族4人でゴミを出さないシンプルな暮らしを目指した記録『ゼロ・ウェイスト・ホーム』(ベア・ジョンソン著)は、世界中で読まれているベストセラーだ。その日本語版を翻訳したのが高知県在住の服部雄一郎さん。自身も妻の麻子さんと2人の子供とともに、ゴミの出ない生活を探究している。
「ゼロ・ウェイストをストイックに考える必要はありません。ジョンソンさんも結論づけていますが、現代社会に生きる以上、ゴミの排出をゼロにすることは不可能。でも、近づけることは誰でもできます。大切なのは楽しく挑戦することです」
生活ゴミといえば、筆頭は食品残渣。つまり生ゴミだ。時間が経つとにおいが出る。でも、収集は週のうち限られた日だけ。
「狭くても庭や畑があればコンポストは絶対のおすすめ。マンションのベランダで使えるタイプもあります。慣れないとにおいや虫が発生する失敗もありますが、微生物の活かし方がわかると、単なる処理がクリエイティブな面白さに変わります」
生ゴミについてはゼロ・ウェイストが可能。だがほかのゴミはそうはいかない。紙、金属、ガラス、プラスチック。分別して資源化に回す必要がある。
「リサイクルは大切なんですけれど、分別すればゴミ問題が解消されるわけではありません。今世界的に問題になっているのは資源の浪費です。ゴミ問題の本質はここです。まずは蛇口を絞る必要があります」
ゴミをゼロに近づける"5つのR"
じつはもうひとつ重要なRがある。Rescue(レスキュー)だ。服部家で活躍する生活道具の多くは、持ち主が捨てたか、その寸前にもらい受けたもの。
1.Refuse リフューズ(断わる)
2.Reduce リデュース(減らす)
3.Reuse リユース(繰り返し使う)
4.Recycle リサイクル(資源化)
5.Rot ロット(堆肥化)
5つのRを徹底すれば、ひと月に出るゴミはわずか
服部家では、上の図にある5つのRを基本にゴミの全体的な減量に取り組む。とくに大事なのは家庭への入り口だ。過剰な商品包装、商品に勝手についてくるオマケ、そして郵便受けのDM。こういったものを断わるだけでもかなり減らせる。
悩ましいのは食品トレイだ。今はどんな食べものもプラスチック類で個包装されている。妻の麻子さんはいう。
「悩みましたが、無理せず自分の気持ちを大事にする、というのが結論です。いらない容器にパックされていても、どうしても食べたいものだったら買います。パッケージが嫌だなという気持ちが少しでも先行したものは買わない。すると、むだな買い物が減り、自然に良いものを選択する暮らしになります」
同調圧力が強い日本では、過剰包装を断わるようなことも奇異な目で見られやすい。昔は量り売りが当たり前で、包装も新聞紙だったにもかかわらず、だ。
それでも、顔なじみになれば肉屋は持参のガラス容器に気持ちよく入れてくれる。パン屋には竹籠とナプキンを持って行き、精算時は入れてくださいではなく、自分で入れますといってトレイから籠へ移すという。
『ゼロ・ウェイスト・ホーム』にはもうひとつ興味深いことが書かれている。ゴミを出さない暮らしのヒントはキャンプにすべて凝縮されており、体験して学ぶべきだという論だ。
高所大所から理想を論じる専門家が環境問題をリードする時代は終わった。シンプルに生きる意味を皮膚感覚で理解している自然派の出番がきたのだ。
燃やすゴミはこれだけ!
残るのはリサイクルの利かない素材だけ(可燃ゴミ)。中身はガムテープ、宅配便の伝票など。1か月で350gくらいまで減らせた
翻訳の仕事のほか、毎週水曜日のみ開店の南インド料理カフェ、野草茶などの販売を行なっている。野草茶はガラス容器に密閉。
手作りの楽しみもゴミを減らすうえでは大きな効果がある。右の味噌甕は近所で捨てられていたもの。
ちょっと昔の竹や籐の製品は、軽く丈夫で使い込むほど味が出る。「サステナブルのお手本のような存在ですよね」(麻子さん)
ニワトリを飼うと生ゴミの処理はもっと効率的になる。服部家にも去年までいたが、残念なことにイタチに襲われ全滅してしまった。
生ゴミは金属容器にまとめる。中央の石鹸置きは天然素材のヘチマ。左は高い洗浄効果を持つが環境へのダメージは極めて少ない重曹。
※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平
(BE-PAL 2020年5月号より)