岡山県西粟倉村でバイオエネルギーを利用して鰻の養殖事業を担当している、エーゼロ株式会社(以下エーゼロ)の自然資本事業部の野木雄太さん。野木さんは、大学在学時にインターンで鰻の養殖に関わり、大学卒業後に正式に入社して今年で3年目になります。今回は野木さんに、「森のうなぎ」についてお話を聞きました。
岡山の山奥で、なぜ鰻の養殖?
西粟倉村に拠点を置くエーゼロは2016年から、廃校「旧影石小学校」の体育館を利用して、鰻の養殖を始めました。しかしなぜ山奥で鰻を育てようと思ったのでしょうか? 野木さんはこう説明します。
「西粟倉村は、岡山県三大河川である吉井川の源流部にあります。水が綺麗なこともポイントですが、それ以前に鰻を育てるには、25~30度Cの温かい水が必要です。夏場は加温しなくても問題ないのですが、冬場の水温をキープするためのメインの燃料に、村内の製材所から出た端材や、間伐材から作られた使用済みの割り箸等が使えると考えたのがきっかけでした」そう、木質バイオマスです。
森林からはじまる地域資源の循環を活かす生産システムを実現したい。そう考えたときに、鰻の養殖に行き着きついたということです。
鰻のことを考えた養殖にトライする
春と秋に稚魚を仕入れて育てます。稚魚は昔から日本で食べられていたニホンウナギのみ。しかし驚いたのは、ほかの養殖場で競争に負けて、育ちが悪い稚魚のみを育てるのだそう。そんな稚魚を仕入れるわけは、価格の安さだけでなく、「価値のなくなったものに価値をつけたい」という信念からだそうです。
そんな稚魚たちですから、成長速度は遅く、通常半年ほどで出荷されるのに比べて、1年ほどかけてじっくり育てます。
何より大切なのは鰻が生きる環境
鰻の餌は、市販されている配合飼料の中でも穀類が少ないものをチョイスしています。なぜなら、本来鰻は肉食で植物を食べないので、なるべく自然に近い状態を維持するため。穀類の割合を増やせば成長が早まる代わりに、鰻に負担がかかるといいます。また、鰻の腸内環境を整えるために酵母なども混ぜています。人間の都合ではなく鰻のことを考えて大事に育てているのがうかがえました。
鰻から生まれる、林業と水産業の循環
この養殖場の最大の特徴は「循環」していることです。
鰻を育てているプールの水はろ過装置にかけられ、ほとんど水を足す必要がありません。また、プールの底に敷いている汚れ吸着用のマットは、同じ廃校の中にある障害者施設で洗浄してもらっています。障がい者の収入にもなっていて、これもひとつの循環です。林業と水産業をつなげて “循環”させているだけでなく、そこに派生するエネルギーや雇用に関しても循環がもたらされているのです。
ろ過槽でろ過された沈殿物や廃液は、校庭のハウスで育てている野菜などの肥料として再利用されます。栄養分が高すぎるため、植物によって合う・合わないがありますが、今年から試験的にイチゴの栽培が始まりました。
養殖から加工までを手掛ける
始めのうちは、養殖のみを手掛け、加工は県内の加工業者に委託していましたが、育てるところから加工して流通に乗せるまで自分たちの手でやりたいと考え、野木さん自ら千葉県へ鰻加工の修行に行きました。
育てた鰻はお店に卸したり、真空パックの状態で道の駅等で販売しています。最近は、新鮮な鰻をお客さんの目の前で捌き、調理して提供することにも挑戦しています。今後は飲食業に力を入れていきたいそうです。
「林業と水産業を循環させて、雇用も生んで、西粟倉村の中でエネルギーがまわっていく。自然と人間が仲良く巡っていくモデルとなれば」と野木さんは話します。
自然を守ることとは、単純に保護を意味するだけでなく、森や水の力を最大限に生かして人の暮らしと上手に循環をさせていくことでもあるのだなと感じました。西粟倉に来たら、ぜひ野木さんが心を込めて育てた鰻を食べに来てください!
西粟倉村の「森のうなぎ」はこちらで購入できます。
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