ミュージシャンとして活躍するTOSHI-LOWさん(OAU/BRAHMAN)は、キャンプインイベントNew Acoustic Camp(通称ニューアコ)の主催者でもある。コロナ禍のこと、アウトドアのこと、ニューアルバムのこと、いろいろ聞いてみました!
去る2020年9月、群馬県みなかみ町で開催されたキャンプインイベントNew (Lifestyle) Acoustic Camp。初開催から10年間が経った今年はイベントタイトルにLifestyleを掲げた。「新しい生活様式」のなか規模を例年の1/4程度に縮小。小まめな手洗いや消毒、ソーシャルディスタンス、新型コロナウイルスの感染拡大防止の対策を参加者にもスタッフにも徹底的に呼びかけての開催となった。
コロナ禍を受けて直前まで状況を精査しながら、ようやく実施にこぎつけた形となった。当日は太陽が眩しい森のなかでのキャンプやコンサートをのびのびと楽しむ参加者の笑顔が会場に溢れた。イベント終了から2週間後にも発症の報告は見られず、本当の意味で無事にイベントは終了した。
来年どうするか? その気持ちが強くなった。
—イベントは無事に終了しました。コロナ禍での開催はどうでしたか?
「無事にニューアコを終えられたけど、万々歳! という感じではないですね。逆に来年はどうするのか?ということを強く思いました。例えばこの先、状況が好転して、イベントなどの入場者数などの制限が無くなったとしても、心情的にはそうはならないと思うんです。人を溢れるほどワッと入れられるわけじゃないですよね。だからどちらかというと、見えない来年への不安のほうが大きいかもしれないです」
「実際に開催してみて、もともとニューアコが持っているものの大事さが今回はよく分かりました。『キャンプできる=普段の生活がちゃんとできる』という基本のこと。あと思ったのは、出演者は毎年同じような面子でもいいかな(笑)と。閉鎖的な意味じゃ無く大事なものを共有してくれるという意味で」
—今回は「過去に参加したことがある人がグループにいること」というのが参加条件にありました。出演者も過去に何度も出演している気心が知れた皆さんでしたね。
「今回は出演者も少なめでタイムテーブルも短め、開催の時間自体が短かったです。YouTubeのライブ配信もあったので、結局ゆっくりできたのはイベントの前夜くらいでした。もっとゆっくりできるかと思ったけど、バッタバタでしたね。あとは、セッションが多かったのもあるかな」
—ライブ配信は、このコロナ禍ならではの試みでもありますね。TOSHI-LOWさんは他の出演者の皆さんのステージにもいつもに増して多く飛び入りしていました。そうしたセッションは打ち合わせするんですか?
「なにもリハもなしでいつも突然です。ノリでね。一緒にできる曲があれば、いきなりステージに行くこともあります。それもありかなと思うんです。でもアーティストは結構真面目な人が多いので、やっぱりきっちりやらなきゃ! と、なる面もあるけど、ニューアコだからもっとゆるい感じでもいいと思っています。俺たちだけじゃ無くて色んなアーティストたちがステージを行き来するような、そんな感じになって、脱フェス化していきたいところでもありますね」
ひとつだけ自分たちを褒めるとしたら、続けてきたこと。
TOSHI-LOWさんが所属するバンド、OAUとしての旅が始まってちょうど15年。昨年はOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDからOAUへと改称し、リリースしたアルバム『OAU』は、バンド名そのもの名刺代わりの1枚という感があった。ドラマや映画の主題歌となり耳慣れた曲も多く、ますます注目が集まる。
彼らがオーガナイズしてきたニューアコというイベントの存在もあるためか、初期から比べると、自然に溶け込むような音が増え、森や緑を彷彿とさせる広がりのある自由自在なサウンドに変化を遂げている。そして、12月9日にはオールタイムベスト盤『Re:New Acoustic Life』が発売される予定だ。
—昨年リリースした『OAU』でバンドのイメージがかなり変わりました。カラフルになったというか。そして、近日リリースされるアルバムはさらにその印象が増して。今回のアルバムは過去の曲を集めたベスト盤ではなく、再レコーディングされたものなんですよね。再録音は、アーティストの方にとってはどんな意味合いがあるのでしょう?
「昨年のアルバムでグンと変わったと思います。そのカラフルな感じが、いまバンドのなかにあるんだと思います。初期のころはモノトーンな感じで、そのモノトーンな感じをいまやれるかっていったら、やれなくて。だったら、いまのカラフルな味付けで曲をやったらとっても融合する感じがしました。
15年前や過去に作った作品を、いま自分たちで聞くのは正直恥ずかしい思いもあります。とくにOAUは、手探りで始まったバンドで、やっていくうちにどんどん積み重なっていきました。再録音できるというのは、すごくご褒美みたいなものです。本来的には、新しいものを作ってやっていかなきゃいけないなかで、もう一度自分たちの過去を振り返らせてもらえました」
—『Re:New Acoustic Life』はOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND時代からの知っている曲ばかりなんですが、でもその「味付け」が違っていて、まったく新しいアルバムのようでした。
「OAUから聞き始めてくれた人にも、聞いてもらいたいアルバムです。もちろん、それまでを知っている人は、より良く楽しんでももらえます。ひとつだけ自分たちを褒めるとしたら、やめなかったことだと思うんですよね。続けてきた。続けることでしか答えはでない。
やり直しというのはできないんですけど、取り戻すことはできるんです。だから15年前の自分たちのものが取り戻せたというか、つたないプレイやライブは消えることじゃないんですけど、もう一回取り戻せたというか。そんな気がしているんです」
—今回のアルバムでは、井上陽水さんの『最後のニュース』をカバーされています。今年の2月、コロナ禍直前でのライブでも披露されていました。いま、このような時勢もあり、とても刺さりました。なぜ、この曲を?
「最近カバーをやる機会が多かったこともあり、実際はもっとやりたいなという思いもありました。まあ、その楽しみは別の機会にとっておいて……。今年やったなかでも、とくにこの曲は響く曲というか。それは必ずしも自分たちの曲である必要はなくて、歌い継がれていく曲というのがあると思うんです。『最後のニュース』は、優れた予言だったんじゃないかって」
「実際に音楽の先駆者の人たちってそういうことが多々あって、なぜなら生活のなかで毎日に追われている感じはなく、世間から浮いた吟遊詩人的なところはある。一般社会とは少しちがった感覚や目線。これってまずい方向なんじゃないか?だとか、こういうことがいずれくるんじゃないか?という予言みたいな部分が凄くあるんですね。これは、2020年をしっかり表している30年前の曲。
“暑い国の象や広い海の鯨 滅びゆくかどうか誰が調べるの”
“薬漬けにされて治るあてをなくし 痩せた体合わせどんな恋をしているの”
歌詞のどの行を読んでも、より今年っぽい。俺はカバーすることは好きですね。でもオリジナルがあるので、オリジナルが好きな人たちを傷つけないことに配慮しながら。自分たちがやるなら、自分が歌う意味というものを入れたいですね。
30年前にこういう曲が生まれたように、自分がこの先30年後に誰かに歌われるような曲を作りたいです。もしかすると、それはいま売れるということとは真逆かもしれなくて、時代が移り変わってそのときに届くかもしれない」
ソロキャンプ、興味無いなぁ。だってずっとソロだったから
—最近はどこか行かれましたか。
「先日初めてグランピングに行ったんですよ。千葉のほうに。高級なグランピング施設で、ゲルみたいなテントにはベッドが入っていて、食事もセットしてあって、手ぶらでOKなところ。すごく楽しかったけど、キャンプっていう実感がなかった(笑)。面倒くさいけど、もう少し自分でやれる感じがいいなと。準備とか買い出しとか後片付けとか、面倒なんだけど、普通の自分でやるキャンプの良さも改めて感じました」
—普段のキャンプでは食事も作ったりしますか?『鬼弁』という本も出されています。
「もともと好んでやるタイプではないので、誰かにやってもらうのが好きですね。弁当も作りたい!ってわけじゃないし。やってくれる人がいたら、お願いしますという感じです。まぁ、やり出すと楽しいんだけどね。人に作ってもらうほうが断然、食事は美味しい。
『鬼弁』の本をきっかけに自分のことを知ってくれた人も結構いるみたいです。音楽では接点がなかった子育て世代の女性とか。自分は料理も洗濯もやるけど、男女で分けるもんじゃないですしね。本来は内在しているものだから、どっちみたいなものはなくて、男と女で分けるナンセンスさ、性差がなくなっていく社会、今後もっと大きく変わっていくんじゃないかなって思います」
—アウトドアは特にその男女の差がない世界だと思います。なにかやってみたいこととかありますか? 最近はソロキャンプなんかが人気です。
「ソロキャンプ、まったく興味無い(笑)。子供のころにソロでず~っと遊んでたし、田舎だったというのもあるけど、学校から帰ると木なんかを集めてよく火を炊いて遊んでたんです。友達がいない時期とかもあったからなぁ。やっと大人になって友達がたくさんできたのに、なんでひとりでそんなに寂しいことしなきゃいけないのかって(笑)。キャンプも気心知れた仲間と過ごす方が好きですね」
—そういえば以前、細美武士さん(ELLEGARDEN/MONOEYES/the HIATUS)にお話を伺ったときに、「キャンプするからと思って、自分ひとりなのに、でっかいテントやテーブル、イスも何脚も買っちゃったんだよね。こんなにどうすんだ〜と思ってたけど、結局みんなが集まってきて凄く楽しかった」と仰っていました。
「キャンプの仕方って、その人がよく現れますよね。そういう空間があるところに人は集まりやすいし、自然と行きたくなる。逆にソロテントで自分の好きなものをこれ見よがし並べてるようなサイトは、近寄りがたい。うちにいるスタッフのテントにも一張そんな雰囲気のありますね(笑)。
あ、アウトドアでやってみたいことはなにか?でしたね。そうだなぁ、前に西表島に行ったときにカヤックでマングローブの森を漕いだことがあるんだけど、ああいうのはまたやりたいですね。カヤックとかSUPとか、そういうものでしかアプローチできないような場所へ絶景を見に行くとか、やってみたいですね」
TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)
1974年茨城県水戸市生まれ。1995年にロックバンドBRAHMAN(ブラフマン)を結成、1999年メジャーデビュー。2003年に女優・りょうと結婚。2005年にはアコースティックバンドOAU(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)としての活動もスタートさせる。2010年New Acoustic Campを初開催。2011年に発生した東日本大震災以降は、幡ヶ谷再生大学復興再生部をスタートさせるなど、さまざまな災害支援を継続的に行なっている。2男の父でもあり、2019年には長男に作り続けた弁当を綴った『鬼弁』(ぴあ)の出版が話題となり、音楽を主軸に多方面で活躍している。
※構成/須藤ナオミ 撮影/小倉雄一郎