23作目となるポケモン映画、『劇場版ポケットモンスター ココ』が公開されます。今回の舞台はポケモンたちの楽園、オコヤの森。仲間と群れで暮らしていた幻のポケモン・ザルードはある日、川辺で人間の赤ん坊を見つけ、ココと名付けて育てる、ポケモンと少年の親子愛の物語です。ザルード役で声優に初挑戦した歌舞伎俳優、中村勘九郎さんに聞きました!
中村勘九郎さん
中村勘九郎(6代目)
なかむら・かんくろう
1981年生まれ。87年二代目中村勘太郎を名乗り初舞台。2012年に六代目中村勘九郎を襲名。09年平成中村座『仮名手本忠臣蔵』で読売演劇大賞杉村春子賞他受賞、13年コクーン歌舞伎『天日坊』で読売演劇大賞最優秀男優賞他受賞、同年『さらば八月の大地』で菊田一夫演劇賞他受賞。その他、映画『銀魂』に出演、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』では主演を務めた。
『劇場版ポケットモンスター ココ』 (C)Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku (C)Pokémon (C)2020 ピカチュウプロジェクト
父親の成長物語を意識して演じた、ハートフルな作品
――『劇場版ポケットモンスター ココ』のオファーを受けたときの感想を教えてください。
「声のお仕事をしたいとずっと思っていたのですごくうれしかったです。しかもポケモンの劇場版で、ポケモンの役。どう鳴くんだろう?と思ったら、たくさんしゃべっていました(笑)。声だけの表現って難しいです。過剰になり過ぎても抑え過ぎてもいけなくて、世界観に合ったものでないと。そこは矢嶋監督と三間音響監督のディレクションのおかげです。ザルードに魂を込めたい、と心で演じることを忘れないようにしていました」
左が勘九郎さんが声を演じたザルード。右が人間の少年・ココ。声は上白石萌歌さんが演じる。
――台本を読んだ感想は?
「とてもハートフルな作品だなと。僕も二人の子どもを持つ親ですけど、自分より大事なものができたときが親になれた瞬間なのだ、というところで心を打たれて。最初に台本を読んだ段階で泣いちゃいました」
――演じる上で、ザルードの成長物語でもあるのを意識したそうですね?
「ふだん子どもを見ていても、教わることってたくさんあるんです。子どもって夕陽を見て、それをイチゴにたとえたりします。僕なんてもう大人になってからそんな目で世界を見られないけど(笑)、彼らは初めて目にしたものに初めての感情を抱き、それを素直に伝える。すると、あ……そういう風に世界が見えているんだ、同じようにいつも新鮮な気持ちでいたいなと。それからこの映画は大人にとっても、自分の親に対する想いを再確認するきっかけになる気がします。親からの愛、自分が大切にされていたことを思い出すというか」
――大人も、子どもの目線にもなれると?
「僕は歌舞伎役者の家に生まれましたが中3のときに父は、やるかやらないか?自分で選択させてくれました。自分の人生だからと。(兄弟)二人共やらなかったら養子を取るからいいし、と言われたとき、やめろと言われていると勘違いして。やらせてください!と返事をしました(笑)。あのとき父は、僕がのちのち大きな役や大変な役をやるときに、自分で選択したのだから覚悟を決めて務めなければいけないという責任感を教えてくれたのかなと。だからザルードとココが決断するシーンでは、子どもの側の想いになったんです」
――ご自身もお二人の息子さんの将来は、自由に選択をさせようと?
「自由に、好きなことを見つけてほしい。それを全力でサポートするつもりです。でもウチに帰ると、ず~っと二人で芝居ごっこして遊んでます。いちばん好きなことが芝居みたいで、それはちょっとホッとしてますけど」
二人の息子さんのことを語るとき、本当に愛おしそうな表情をする勘九郎さん。
ポケモンとの出合いは高校時代
――ご自身の、ポケモンとの出合いは?
「高校生のときに、劇場版の1作目(『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』)を観ました。僕はポケモン世代よりちょっと上、妻や弟がちょうどゲームをやっていた世代なんです。昨年の『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』も子どもと観に行きました。最近の作品は全部、映画館で観てますよ。DVDもいいですけど、あの雰囲気や音、映像は劇場でしか味わえないですから。最近映画館へ行くとこの映画の予告編が流れて、すると息子2人が僕の方を覗き込むんです。やってるよ?みたいに。それがちょっとかわいくて(笑)」
――好きなポケモンはいますか?
「カラカラです。頭に骨を被って手に骨を持っていて、ビジュアルがカッコかわいい。被っているのは死に別れた母親の頭蓋骨で、満月に向かって泣く“こどくポケモン、カラカラ”って! ビジュアルが好きでしたが、バックボーンを聞いて、さらに愛おしくなりました。『名探偵ピカチュウ』にも出てきますよね」
こどくポケモン カラカラ。
――今回が声優初挑戦ですよね。最初、ご本人と気づきませんでした。つくりこんだ声で演じられたのでしょうか?
「演劇でもそうですが、声がキャラクターに合ってないと違和感が出ます。つくりこんでしまうと、つくりこんだものしか聞こえなくなってしまう。だからつくりこむという作業はしていません。改めて、プロの声優さんとは全然違うなと。もちろん慣れもあるでしょうが、的確に感情をのせるとか声の質とか音域の幅とかタイミングとか、全然敵いませんね」
――歌舞伎でも異形の役を演じられると思うのですが、心構えなどに共通点が?
「歌舞伎でも鬼や獣とこの世のものではないものを演じます。もちろんその感情にはなれませんが、彼がどういうふうに生きているのか?しっかりと自分の中において演じるということです。ザルードに関して、なぜ彼に親がいないのか?台本に書かれていないので想像するしかないですけど、例えば最初に観た景色がどんなものか? そうしたことをお腹の中に持っておくと、それが人間であろうがなかろうが、内面から出てくるものがあるんじゃないかなと。そうした作業はちゃんとするようにしています」
――作品として、この映画を観た感想は?
「いちどしか観ていないので客観的に観られないのですが、映像の細かい部分、葉っぱの一枚一枚まで美しい。色々なアニメ作品の森とも違い、ちゃんとポケモンのジャングルになっています。ストーリーとしては、ポケモンが子どもを育てる描写が初めて登場しますが、ザルード以外のポケモンの親子関係も観たくなりました。音楽も素晴らしいし、アニメというジャンルとしてではなく、1本の映画として完成度の高い作品に関われたことが誇らしいです」
血の繋がりもなく種別も異なる親子関係、しかし子育てとともにザルードも親となっていく姿に勘九郎さんも共感したそう。
――この映画には共生や環境問題も織り込まれていて、子どもにもわかりやすくメッセージが伝わりますね。
「本当に。長男は9歳で学校でSDGs(エスディージーズ)も学んでいますから、そうしたメッセージを感じ取ってくれればいいなと。カッコよかったりかわいかったりするポケモンがたくさん出てくるので、お子さんはもちろん楽しめると思います。一緒に観た息子たちも、格好よかった!と言ってました。それでいて僕自身、自然と涙が出てきました。いわゆるお涙頂戴の映画ではないのがいいのかもしれません」
ここ3年くらい、家族でキャンプを楽しんでます
――キャンプを楽しまれるそうですが、子どものころからアウトドア好きで?
「近くにゴルフ場があったら、父も行ったかもしれませんけど……(笑)。もともと僕自身はバーベキューをやるくらいで、家族でキャンプを楽しむようになったのはここ3年くらい。妻と子は知り合いにキャンパーがいて連れていってもらうようになり、5年くらい行ってるのかな」
――キャンプをすると、子どもとの関わりのなかで新たな気づきがありそうですね?
「キャンプ場へ行って、クルマから降りて。テントを設置する前に、濡れたくないと思うじゃないですか。そうやってあとのことを考えるのが、もう大人なんですよ!子どもは、真っ先に川へ行く(笑)。その場を全身全霊で楽しもう!という気持ちに蓋をしません。蓋が全開の彼らの姿を見るとうらやましくなるし、そうしなきゃいけないなと思って」
――自然の中だと、生きる力のようなものを教えやすい面も?
「僕の場合はほぼ受け売りです(笑)。でも野外で食べると、いつもより美味しく感じますよね。ウチの子はふだんから野菜を食べますけど、いつもより楽しんで食べる気がします。こないだピザ釜を借りられるキャンプ場へ行って、気づいたら1時間半くらいず~っとピザ釜の前にいました。ぱちぱちっと火を起こして、釜を温めて、ピザを焼いて。ものすごく楽しかったですね」
――今後、アウトドアやキャンプでやってみたいことはありますか?
「山梨の『ほったらかしキャンプ場』に行ってみたいんですよ!甲府盆地を見渡す、景色がとても美しいと聞いて。そこにある『ほったらかし温泉』にも入りたい。それともう少し大きいテントを買いたいな。……こないだ行ったキャンプ場で売店に、歌舞伎座の写真が貼ってあったんです。“ここの木材が歌舞伎座の舞台に使われています”と書いてあって、嘘でしょ!?と。そういう偶然ってあるんですね」
声を演じた、とうちゃんバージョンのザルードと一緒に。ピンク色のマントをまとっているのが、とうちゃんザルードなのだ。
『劇場版ポケットモンスター ココ』(配給:東宝)
●特別出演/上白石萌歌 山寺宏一 中川翔子 中村勘九郎
●声の出演/サトシ:松本梨香 ピカチュウ:大谷育江 ムサシ:林原めぐみ コジロウ:三木眞一郎 ニャース:犬山イヌコ ナレーション:堀内賢雄
●メインテーマ/岡崎体育「ふしぎなふしぎな生きもの featuring vocalトータス松本」(SMEレコーズ)
●原案 : 田尻 智 監督 : 矢嶋哲生 脚本 :冨岡淳広・矢嶋哲生 エグゼクティブプロデューサー :岡本順哉・片上秀長 プロデューサー : 下平聡士・内山雄太・關口彩香・川口類 アニメーションプロデューサー : 加藤浩幸 キャラクターデザイン :丸藤広貴 総作画監督 : 丸藤広貴・西谷泰史 音響監督 : 三間雅文 音楽 :岡崎体育・宮崎慎二 アニメーション制作 : OLM
●12月25日より全国ロードショー
取材・文/浅見祥子 撮影/深山徳幸