今回から何回かに分けて、小豆島遍路を歩くモデルコースをご紹介します。どの日も、遅くても8時には歩き始め、17時には終わる、1日平均20kmのコースを組んでいます。
四国遍路と違って小豆島遍路は順路の番号と地図上の並びが一致していない場所もすこしあり、初めてだと「どうまわったらいいのか」と迷う方も多いです。プランを立てる参考にしていただければ幸いです。
小豆島霊場会総本院から始めると心強い小豆島お遍路
小豆島遍路は“八十八か所参り”と言うくらいだから、八十八か所のお寺を巡るのだと思われがちですが、奥の院と番外、そして「霊場会総本院」を合わせた合計94か所が公認霊場となっています。
今回紹介するモデルコースは、土庄にある小豆島霊場会総本院から始めます。総本院には弘法大師が祀られていて、中には霊場会の事務所があります。
ここでお遍路用品の購入や遍路の相談などもでき、船の本数が一番多い土庄港から近いこともあって、この総本院から遍路を始める方が多いようです。
実際のところ、小豆島遍路はどこから始めても終わっても間違いではありません。でも、お遍路道につけられている道しるべは順番どおりになっていることも多いため、できる限りそのとおりに歩いた方が迷うことは少ないとはいえます。
ただ、注意したいのが番号と地図の並びが必ずしも一致していないところ。迷ってしまうこともあるので、地図は必携です。
記事では、遍路歩きを身近に感じていただきたいので、道中で見られる風景など、主にコースの内容をご紹介していきます。
各寺庵のことや歴史、お参りのための作法などについては「小豆島八十八か所参り」HP(https://reijokai.com/)に詳しく紹介されていますから、そちらをご覧ください。
土庄 霊場会総本院~グリーンプラザ小豆島 約17km
では、1日目のスタート。
先程お伝えした「霊場会総本院」でお参りし、「納経帳」に始めの御朱印を押していただいてから、いざ出発。
総本院を出た後、車道を少し歩くとすぐ64番札所の「松風庵」に着きます。はい、ひとつ目がいきなり64番です。ここは入り口が天神社と一緒になっていて、右手に上がると神社、左手に上がると松風庵へと繋がっています。
総本院からここに入るまでの車道は何度も何度も通っているのに、一歩、中に足を踏み入れた途端、どこかの違う世界か時代にタイムスリップしたような感覚になります。
その後また現実の世界(=主要道路)に戻り、少し進むと「迷路の町」へと導くお遍路サインが。
はたまた異次元への入り口か。夜は艶っぽい雰囲気になりそうな路地へと、ワクワクしながら足を踏み入れます。
そう、このあたりは「迷路の町」と呼ばれる地域で、路地が複雑に入り組んでいます。昔、海賊を迷わせるために作られたのだとか。いま海賊が襲ってきたらどうやって撒こう……なんて想像しながら散策するのも楽しい場所です。
その路地をクネクネ曲がりながら進むと、着きました。58番札所の「西光寺」。
西光寺は、立派な三重塔のあるお寺です。迷路の町で迷ったら、三重塔を探して目印にしながら歩きましょう。
その三重塔は奥の院・誓願之塔です。西光寺本堂でお参りした後は、本堂の右手にある階段を上って奥の院へ。
さて、西光寺の後は2つのルートに分かれます。個人的に名付けるならば、「①買い物や食事をしていくコース」と「②車や人通りが少なくて歩きやすいコース」。
まず①のコースは、迷路の町を出た後車通りの多い、お店やホテルがたくさん立ち並ぶ道に出ます。有名なエンジェルロードもこちらから行けますので、ついでにちょっと見てから行きたい方はこちらへ進みましょう。
大型スーパーやドラッグストアにコンビニ、うどんやラーメン、ハンバーガー屋さんなどもあるので、道中に軽食やお昼ご飯を買ったりしたい方はこちらへ進むことをおすすめします。
②のコースへ行くと、この後12kmくらい飲食できる場所がありません。町なかに帰ってきてからお昼ご飯を食べるとしても、念のため飲み物や軽食は必ず持って行きましょう。そのかわり、静かで眺めのいい道をしばらく歩けます。
ちなみに②コースは最近提案された道のため、お遍路サインがまだつけられていません(2020年10月現在)。
西光寺の後は、「尾崎放哉記念館」を目指します。
記念館を見つけたら、そのすぐ裏手にある墓地を抜けて「天空ホテル 海盧」へ。
ホテルを出てすぐ二手に分かれますので、そこを右へ。
明るくて少しカリフォルニアの海岸沿いとかちょっと高級住宅地の雰囲気がする道を歩いていくと、目の前にビーチが見えてきました。ここが①と②の合流点です。
ここは「鹿島海水浴場」という、広くてきれいなビーチです。ウッドデッキも整備されているので“島遍路”らしく、しばしビーチを歩いていきましょう。
海水浴場を過ぎたら、少し内陸へ。59番札所「甘露庵」が見えてきました。
の甘露庵、こじんまりとしていますが立派な藤棚があって休憩するにもちょうど良いです。
甘露庵を出たら、こんな古くて短いトンネルをくぐりながら少しずつ南下して海辺にある「江洞窟(ごうとうくつ)」へ向かいます。
道中、樹齢千年のオリーブ大樹を見られる場所があります。眺めもいいので余裕があれば寄り道を。
集落を抜けて、小さな漁港の奥に見えるのが江洞窟です。
こちらのご本尊も岩窟の中に祀られています。山岳霊場の雰囲気がありながら、海の真横にあるので他にはない独特で開放感のある場所となっています。
さて、この後はしばらく海岸に沿って歩いていきます。
道中、今度は春の鯉のぼりで有名な旧戸形小学校、現在の「戸形公民館」があります。こんな学校で学べたら最高だろうなぁ……と思えるほどに、海の真横にある小学校ですが、残念ながら今は廃校に。でも地元の人たちから愛される場所で、春には鯉のぼりが空になびき、他にもイベントや映画の撮影などにも使われている有名な場所です。
海に癒されながら、次に着くのは61番「浄土庵」。
集落の中にある、とても小ぎれいな堂庵です。
この後また海岸線に沿って歩きますが、そのうち「重岩(かさねいわ)不動産」という看板が見えます。
ここは遍路の霊場ではありませんが、ぜひとも寄り道していただきたい、観光で来られた方にもいつもおすすめする場所。この地点から往復40分~1時間ですが、登り切った先で一瞬目を疑う光景が見られる、絶景スポットです。
さて、今まで変化に富んだ道を楽しんできましたが、この後はこの日で一番単調な車道がしばらく続きます。少し疲れも出てくる頃なので尚更長く感じられるかもしれませんが、土庄の町なかへ戻るまでがんばりましょう。
ちなみに、ランチを町中へ戻って食べる場合は、島民に人気の「おおみねうどん」さんが遍路道の道中にあります。
町中に戻ってきたら、初めに土庄八幡神社がお出迎えしてくれます。
小豆島には五社の八幡神社(伊喜末八幡神社、富丘八幡神社、亀山八幡神社、内海八幡神社、葺田八幡神社)があり、祭神はいずれも応神天皇、神功皇后、姫太神です。お正月にこの五社を巡る「五社巡り」をする方も多くいますが、その五社にこの土庄八幡神社と富丘八幡宮を加え、それぞれに七福神を祀り、「七福神巡り」をする方もいるようです。
また、10月には各神社で「太鼓祭り」という盛大な秋祭りが開催されます。秋祭り中は小豆島各地で太鼓が練り歩くためゆっくり遍路歩きはできないかもしれませんが、遍路と別にしてぜひ時間を取って見学していただきたい伝統行事です。
土庄八幡神社を出た後かわいらしい小道を抜けると、62番「大乗殿(だいじょうでん)」と63番「蓮華庵(れんげあん)」に到着します。
札所から出てきたところ。なんともレトロな町と消防サイレンタワー。現役でしょうか。
この後は「前島」を出て小豆島へ渡るのですが、その前にもう一度58番の西光寺に寄りましょう。なぜかというと、小豆島の札所では人がいないところも多いため、いくつかの寺院でその付近の堂庵の御朱印をまとめていただくことができるからです。
西光寺では、総本院の後の64番松風庵から63番蓮華庵までのすべての御朱印をいただけます。
もう一点、上の文章で「え?」と思われた方もいらっしゃるでしょうか。はい、実は今まで「前島」という島を歩いていました。これから世界一狭い海峡としてギネスブックにも登録された、「土淵海峡」を渡って小豆島へ行きます。
といってもこの海峡、本当に狭くて一番狭いところで10m弱しかありません。なので私自身も移住して2年目になるくらいまでは前島という名前は知らず、海峡は小豆島内にあるただの川だと思っていました。
この土淵海峡につながる淵崎港は「おんばた」と呼ばれ、このおんばた周辺は、古くから政治・経済の中心として島一番の賑わいを見せていたそうです。今も商店や土庄町役場など行政施設が多くあり、ここが小豆島の中心であることがうかがえます。
ぜひこの地域にある町並みを楽しみながら歩いてみて欲しいです。
そんなことを考えていると、その面影を残すこんなお店を発見。
小屋に守られた水車がすごく目を引く、「葛西正商店 創業大正弐年」?!!
“米”と書いているけど他にも何かありそうだったので入って「何屋さんかなーと思って入ってみました」と言うと、「いろいろ屋さんで~す」というかわいいお返事が返ってきました。
おっしゃるとおりいろいろあり、もちろんお米もありましたが目を引いたのは小豆島産の手延べそば(素麺の存在感が大きい小豆島において、蕎麦はほぼ知られてません)はじめ、昔から営む島の方が作られた物の数々。どこででも同じものが買えるチェーン店ではなく、ぜひその傍らにあるこういった地元密着のお店に足を運びたいものです。
このお店の周りには、やはり歴史を感じる建物がポツポツと残されていました。
こういった道を抜けてお寺への道へ。次は57番「浄源坊」。巨大なウバメガシの木が出迎えてくれます。
この後は、海を左手に少し高台を歩きます。そうすると何か目立つ塔が見えてきました。
これが53番「本覚寺」(の一角)、その左手前にあるのが65番「光明庵」です。隣接してあるにも関わらず番号が思いっきり飛んでいますが、光明庵は元々別の場所にあったのがこちらに移動されたからだそうです。
もっと驚かされるのは本覚寺。敷地の広さもそうですが、階段を降りるとこんな観音堂が。
「インドのネール元首相の髪の毛をはじめ、頭髪をもって10万人の頭髪を刺繍して作られた、世界唯一の観音像」???
これは拝まずに帰る訳にはいきません。無料とあるのでお願いして拝観させていただきました。住職さん自らが詳しく説明してくださいます。10万人の髪の毛を集めたのも相当なことですが、他にも金銀プラチナが使われています。
髪の毛で観音像を作るというアイデアにも驚きましたがなぜそんな観光名所になりそうな凄い高価な物が(言っては失礼ですが)こんな日本の片隅の一寺にひっそりと納められているのか。
あまりにも驚いたので質問すると、「国宝に認定するという話もあったが、そうすると厳重に管理しなくてはならなくなり、そうすると費用もかかり今のように無料で拝観してもらうわけにはいかなくなる。やはりお遍路さんたちに気軽に見ていただきたい、そういう想いでおります」とのお答えでした。
ワシントン平和条約の締結の後に平和を願って先々代の住職のお考えで作られたという観音様。中での写真撮影は不可のためこちらでお見せできませんが、実物必見です。
1日目のお参りは本覚寺までです。この日の宿泊候補は3つあります。
- 本覚寺からあと約2km歩いて、海沿いにあるグリーンプラザ小豆島に宿泊。
- グリーンプラザ小豆島まで歩き、そこからオリーブバス四海線に乗って土庄の町中へ戻って泊まる。民宿、ホテル、ビジネスホテル、ゲストハウス、選べます。
- もう少し歩ける方は、あと5kmほど歩いて「コスモイン有機園」に宿泊。でもこちらは常時宿泊受け入れをしていないので、余裕を持って問い合わせしましょう。
または、全行程歩いて一週間くらいなので、気に入った宿泊地を1・2か所ベースキャンプにし、バスをうまく使って毎日往復することもできます。そうすれば荷物も少なくて楽に歩けますよ。
お疲れ様でした! 初日から盛りだくさんでしたが、いかがでしたでしょうか。今日の行程は約17kmなので、歩き慣れている方なら5時間あれば歩き終わる距離です。でも初日ということと、道中に寄り道していただきたい場所がたくさんあるので、余裕を持ったプランにしました。
また、各札所で簡単にお参りだけするのか、般若心経を唱えて正式なお参りをするのかによって所要時間も変わります。
お遍路で、思いもしなかった場所に行けたり発見をたくさんできたりする
ところで私たちがこうして小豆島や四国遍路のことを広めようとしていたり地図を作ったりしているのを聞くと、時々私たちがすごい仏教オタクだと思われている方もいるようですが、それは全くの誤解です。
元々私が遍路を歩こうと思ったのも、単純に四国で生まれ育った人間として、もっと四国のことを知りたいと思ったから。
実際に歩いてみると、普段車で何度も通るから知っている気になっている土地のことを全然知らなかった、ということが毎回あります。そしてやっぱり、歩き終わった後はもっともっと好きになったし、誇りに思うようになります。
だから小豆島に住んでいる人にこそ小豆島遍路を歩いてみて欲しい。「今日予定ないな。近所の遍路道、歩いてみようかな」。そんなきっかけでいいんです。ただの散歩もいいですが、遍路道の道しるべに従って歩くことで、想像もしていなかった場所に導かれたり、たくさんの発見をしたりするはず。
今回、あえて遍路の白衣も菅笠も身につけていません。何かひとつでもお遍路さんと分かる物を持って歩くことを普段おすすめしていますが、そのことでハードルが高くなるようならまずは普通の恰好からお遍路歩きを始めてもいいんです。
それで面白いなと思ったら、何かお遍路さんの用具を身につけて歩いてみてください。それで本当に世界が変わります。
ということで、万人に読んでいただきたい小豆島お遍路モデルコース1日目、これにて終了!
このシリーズは続くので、次回の2日目をぜひお楽しみに!