千葉県にある保育園の年長さんと裏山遊び。彼らは日常のお散歩で野山を駆け巡っている野生児達だ。野生児といってもいつも歩くコースは決まっているので、遊び方、歩き方、野山遊びの好き嫌いなどは固定化してくる。そこで今回のミッションは「年長さんだけのお散歩コースをつくる」と設定していつものお散歩コースを思いっきり逸脱して進むことにした。
用意したのは10mのロープ。素材はコットンで、直径は12mm、そして編み方は金剛編みのものにした。
これは、幼児の手でもつかみやすく、乱暴に使った際に摩擦でロープが溶けにくい、そして運べる重量などを加味して選択している。ロープの一端はもやい結びをつくり、その輪を利用して子供達が簡単に木などにロープをかけられるように細工をする。このロープを束ねて、10数名1グループごとに代表を決め、その子の背中にくくりつけるのだ。
ロープをくくりつけられた子供達は、恥ずかしそうにはにかみながらも渾身のキメポーズを決める。他の子供達も、ロープ係の格好を見て、なにやらいつもと違うことが起そうな期待感にソワソワしはじめる。
スタートと同時に、子供達は森の中を四方八方に散らばり消えていってしまった。そして思い思いの場所で1発目のロープを木にかけはじめる。
全てのグループが「え?こんな所下るの?」とこちらが尻込みしてしまいそうになる場所にロープをかけはじめる。レスキュー隊も真っ青の手際の良さだ。
これこそロープというツールがあるから湧き出る挑戦心だろう。
ロープ下り唯一の約束は、“絶対にロープを放さない”こと。これを守ることで安全度はグンと上がるのだ。
出だしで転ぶ子、なかなかつかんだ手を緩められない子供、スルスルと上手に降りていく子と、一本のロープから様々なドラマが生まれてくる。
完全に解放された子供達全ての場所を把握するのは、もはや目視だけでは出来ないくらい皆奥地へと入っていってしまった。視界には子供達の姿は無いのに、森のあちこちから
「おーい!大丈夫か?俺が今助けにいく!」
「○○ちゃん頑張れー!」
「ここ降りようよ!」という様々な叫び声だけが響き渡る。
僕はこのエネルギーに満ちた空間を歩くのが好きだ。
集合場所に全員そろったのはおよそ40分後。いつもの道を通ったときの4倍以上もかけて歩いたことになる。小さな擦り傷、ドロドロの服になった子供達の口からは「長谷部先生、また冒険したい」「あー死ぬかと思った。またやろうね」と、元気な声が帰ってきた。
ムッフッフ。
次はもっと面白いことを考えるとしよう。
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長谷部雅一
アウトドアプロデューサー。
アウトドアイベントの企画・運営を手がける「Be-Nature School」スタッフ。人と自然をつなぐインタープリターとしても活躍中。
著作に『ネイチャーエデュケーション』1300円+税 みくに出版刊