のびのびと生き物を飼えるのは田舎のいいところだ。今、わが家には、イヌと、ネコと、ウサギと、ヤギと、ニワトリと、モルモットがいる。いずれも知り合いなどから譲られたものだけれど、暮らしの中で何かしら役に立つのがいい。
イヌはランニングやアウトドアのいい相棒になるし、番犬としてもいなくては困る。ネコを飼ってからは、天井を走り回るネズミの足音が聞こえなくなったし、畑を荒らすモグラもつかまえてくれる。ヤギは除草に大活躍。メスなので子どもを産ませればミルクも搾れる。ウサギやモルモットは、まぁ、あまり役には立たないが、来客者を喜ばせてくれるのはいい。特に子どもには大人気だ。くず野菜や古米を食べるのでエサ代もかからない。多少は除草もしてくれる。
そんな生き物たちの中でも、最も生産性があるのはニワトリだ。毎日、おいしい卵を産んでくれるのはもちろん、フンは畑の最高の肥料になるし、生ゴミやくず野菜も食べてくれる。ニワトリがいることで有機物が循環するのだ。
ニワトリの名前の由来は「庭の鳥」。昔は、大抵の農家の庭先で飼われていたように、農的な暮らしにニワトリほど役に立つ生き物はいない。
年間200~300個の卵を産む
わが家に最初のニワトリがやってきたのは7年ほど前だ。近所の農家から廃鶏を5羽もらった。廃鶏とは産卵率が低下して、処分されるニワトリのことだ。ただ、産卵率が落ちるといっても、それは飼育コストの点で経済的な理由による。ニワトリの産卵のピークは、産卵開始から200日前後。その後は徐々に産卵率が落ちていき、秋から冬にかけては2~3カ月の休産期間もあるため、養鶏農家にとってはそのまま育てるより新しいヒナを導入したほうが、効率がいいというわけだ。通常、ふ化から2年前後でおさらばである。
品種にもよるけれど、採卵用のニワトリは年間200~300個の卵を産む。廃鶏といっても、休産期間を除けば2日に1個どころかそれ以上の卵を産んでくれる。5羽いれば毎日2~3個はてがたい。もらったニワトリはボリスブラウンという種類で、産卵性が優れることから養鶏農家の間でも人気が高い。ペットショップにもよくヒナが売っている。
最後は肉にしていただく
ニワトリは肉にして食べられるのもいいところだ。もらったニワトリの中に1羽だけあまり卵を産まないのがいて、それは早々に絞めてお肉にしてしまった。
生きるということは、生き物を殺して食べることである。それは頭の中でわかっていても、自らの手で初めてその仕事をするときは、それなりの決意がいる。
ニワトリを絞めるときはナイフで首の頸動脈を切ると、心臓を止めずに血が抜けるのだが、初めてでそんな器用な仕事はなかなかできない。それで、ニワトリを庭の木の枝に逆さに吊るし、手斧でトンと一息に首を落とした。血がほとんどしたたらなくなったら、65℃前後のお湯に沈める。毛穴を開いて、毛を抜くためだ。大方の毛が抜けたら、流水で細かい毛を洗い流すと、そこにあるのはもうニワトリではなくお肉。あとは内臓を取り除いて部位ごとにさばくだけだ。
推定5歳になる平飼いのニワトリの肉は硬い。ものすごく硬い。オーブンでローストしたモモ肉は、茶色い焦げ目がついてとてもうまそうだったが、食感はまるでタイヤでも噛んでいるようでとてもじゃないが歯が立たない。結局ナイフでかなり細かく刻んで口に放り込んだが、スーパーに並んでいる鶏肉にはない野性的な歯ごたえと濃厚なコクがあって、味わいは悪くなかった。
『増補改訂版 ニワトリと暮らす』発売!
最初にもらった5羽のニワトリはそうやって肉にしたり、小屋が野犬に襲撃されたりするなどの事件もあって、すっかり代替わりしてしまった。今、わが家にいるのはボリスブラウンのオスが1羽とメスが2羽。烏骨鶏が1羽。その烏骨鶏が卵を抱いてふ化した雑種とふ卵器でふ化させた雑種が1羽ずつ。それから殻が薄い緑色をした珍しい卵を産むアロウカナというニワトリの計7羽だ。
4歳の次男がニワトリ係で、毎朝エサと水をやり、産卵箱から卵を回収する。
家禽であるニワトリはとても役に立つ生き物だ。それが家庭で手軽に飼えるという点で、ほかの多くの家畜とは違う。
そんなニワトリとの暮らし方を紹介する著書『増補改訂版ニワトリと暮らす』(グラフィック社)が3月10日に出る。
実は、本書は2015年に初版が発行されたのだが、諸事情で一時絶版になっていたのを、このたび新たな情報を加えて増補改訂版として出版することになった。
ニワトリの入手方法からヒナのかえしかたや小屋の作りかた、絞めかたなどのノウハウに加え、実際にニワトリを飼っている人たちの実例も多数収録。都心のマンションや住宅地での飼い方も紹介している。
そう、田舎じゃなくてもニワトリは飼える。しかも、役に立つだけではなく、人にもなついて案外かわいい。自給的アウトドアライフをやるならニワトリを飼わない手はないですよ。