シンプルでローテク、だからおもしろい!
MTB(マウンテンバイク)は自然との一体感がとても気持ちいいアクティビティーです。しかし、私のように都市部に住んでいると身近に走れる場所が少ないのがネック。もちろんクルマがあれば郊外のトレイルやMTB専用コースへ遠征することもできますけど、できればもっと気軽に遊びたいところ。
そこで私がいま夢中になっているのが「クランカー」と呼ばれる自転車です。クランカーとは、MTBのルーツである古い改造自転車、あるいはそれを模倣した自転車のことです。
好き者たちの改造自転車がⅯTBへと発展
このクランカーについては、2007年に公開された米国”Pulelmo Pictures”製作によるドキュメンタリー映画『KLUNKERZ』(クランカーズ)で詳しく説明されています。ときは1960年代終わりから70年代にかけて。カリフォルニア州マリン郡のタマルパイス山(標高800m)の消防道を、あるヒッピーのグループが自転車で駆け降りるという遊びを始めたのです。そのうち誰が山を一番速く下れるかを競い合うようになり、自転車も未舗装路のハードなダウンヒルに耐えられるものに改造されていきました。
彼らが着目したのは、戦前に製造されたシュウイン社製のクルーザーバイシクル。とにかくフレームが頑丈で太いタイヤを装着できたのがその理由です。そこにモーターサイクル用のハンドルバーやブレーキシステムなどを組み合わせて改造したものを、「KLUNKER(クランカー)」と名付けたのです。
この危険な遊びは、これまでにない斬新でエキサイティングなものとして地元サイクリストたちの間で大きなムーブメントとなり、ルールを定めた競技会も開催されるようになります。そして改造もさらにエスカレート。ロードレーサー用の多段変速機を組み込んだり、オリジナルのフレームをビルダーに作らせる者まで現われるようになります。そしてこれが、のちにMTBへと発展したのです。
クランカーを作ってみました!
私のクランカーは高円寺の自転車ショップ「I.D.E STORE」で製作してもらいました。自転車メーカーから往年のクランカーをオマージュした完成車が販売されることもありますが、明確な定義のあるカテゴリーではないので、その数はごくわずかです。基本はカスタムメイド。コアなマニアの中には、ビンテージフレーム&パーツを使って当時のクランカーをそのまま再現する方もいますが、私のはもう少しライトな仕様。つまり現代の部品を使って組み上げた、いわば「クランカー風」自転車です。
使用したパーツはこちら
(1)サドルは往年の名作を復刻したセライタリア「ターボ 1980 BROWN」
(2)アメリカ・メリーランド州のパーツブランド、ヴェロオレンジの「クランカーバー」
(3)タイヤはフレームのクリアランスいっぱいっぱいのマキシス「DTH 26×2.30」をチョイス。もちろんレトロなスキンサイドで。ブロックタイヤではないですが、空気圧を落とせば未舗装路でもそこそこ遊べるはず。ちなみに現在のMTBでは27.5インチ(650B)と29インチが圧倒的な主流になっています
(4)クランクはスギノ「RD2BXクランク」
(5)VANSとカルトのコラボによる「ワッフルグリップ」。パターンがVANSのスニーカーと一緒になっております
(6)オールドスクールなBMXやMTBでは定番のVP「 VP-747ベアケージトラップペダル」
(7)ブレーキはテクトロの機械式ディスクを採用
(8)ステムやシートポストは安価でモノがいい「ディズナ」。すべてポリッシュ仕上げで統一しました
身近なオフロードでイイ汗かけます
クランカーは現代のMTBに比べると、はるかにシンプルで原始的な自転車です。現代のMTBでは必須の装備であるサスペンション機構が付いておらず、私のは変速機すらありません。限界性能が低いので、現代のMTBのようなハイスピードで山道を走ることはできませんが、その分、河川敷や農道といった身近なオフロードでもライダー自身が積極的にバイクをコントロールするおもしろさが味わえます。また、乗車姿勢がゆったりしているので街乗り自転車としても実用的ですし、タフで故障の心配が少ないのも魅力です。あとはスタイルですね。過渡期の機械ならではの無骨なカッコよさがあります。
製作にかかった費用は工賃含めて17~18万円。シングルギアの自転車としては高価かもしれませんが、オンリーワンの自転車としては決して高くないと思います。部品のグレードを落とせば12~13万でも同じような自転車を作ることはできますし、組み立てまで自分でやればもっと安価に作れますよ。
これでキャンプツーリングに行くのがクールなのだ
クランカーが流行した当時の映像では、ダウンヒルだけではなく、いまでいうバイクパッキング的な遊び方をしているライダーも見られます。デニムにネルシャツといったラフな服装に大ぶりなザックを背負って山道をツーリングしていたりするんですね。ツーリング専用のウェアやバッグを駆使した現在のスタイルに比べるとスマートではないですが、自転車ツーリングの「自由さ」を体現しているようですごく魅かれますね。私も真似してやってみようと思ってます。