単純で明快な掟だ
愚かしき者 弱き者を寄越すな
強き者 頭のしっかりした者を送れ
戦いの憤怒に堪えうる者
戦いの準備ができている者を わが許に送れ
鉄の意志を持ち
勝ち誇った豹のごとく敏捷で
負けた熊のごとく獰猛な男たちを送れ
勇猛な親たちから生まれ きびしい試練で
はがねのように強靭になった男たちを
あなた方の最良の者を わが許に送れ
(ロバート・サーヴィス「ユーコンの掟」/野田知佑訳)
なんとも猛々しいこちらの詩は、20世紀初頭に銀行員としてユーコン川流域に赴任し、極地探検家としても活躍したサラリーマン詩人ロバート・ウィリアム・サーヴィスの作品です。
ユーコン川はカナダ北西部からアメリカのアラスカ州をへてベーリング海に流れこむ、世界第21位、全長3185kmの大河。
いまからちょうど120年前、この川の支流で金が発見され、「クロンダイク・ゴールドラッシュ」が勃発。10万人を超える猛者たちが雪のチルクート峠を越えてユーコン川をめざしました。
冒頭の詩は、ゴールドラッシュ収束後の1904年、母国イギリスからカナダのホワイトホース支店に転勤になったロバート・サーヴィスが、町の猛者たちから話を聞いて作品化した一篇。一攫千金を夢見て未踏の地にやってきたタフガイたちの胸の高鳴りが、120年の時を超えて生々しく伝わってきませんか?
それから70年後の1975年、『NATIONAL GEOGRAPHIC』誌の12月号に、ユーコン川を4人の20代の若者がイカダで下る特集記事が掲載されました。
特集の扉には、ジーンズにバッファローチェックのウールシャツ姿で昔風のハットをかぶり、筏の上に並べた木箱や折りたたみチェアに座ってトランプに興じる4人の写真が掲載されていました。
この記事を、東京の小さな海外旅行雑誌編集部に勤めていた37歳の青年が読み、胸がうちふるえるような衝撃を受けます。
青年は、会社をやめてフリーランスのライターになり、カヌーで日本全国の川を旅するルポルタージュを雑誌に書きはじめました。
やがて、48歳になった彼は、あこがれのユーコン川をはじめて旅します。
そして、毎夏のように、ユーコン川を訪れるようになりました。