3月11日は、忘れもしない東日本大震災の発生日。国内観測史上最大マグニチュードの大地震と、それに伴う火災や津波によって、多くの尊い命が犠牲になりました。
1995年に起きた阪神・淡路大震災や、記憶に新しい2016年の熊本地震などからも分かるとおり、日本は紛れもない地震大国。さらに近年は、ゲリラ豪雨や巨大台風による床下浸水やがけ崩れなど、地震以外の大規模災害も目立つようになってきました。
「災害への備えは大切。でも、何を準備すべきか分からない」。そんな声に対して、登山用品専門店石井スポーツで登山学校の事務局長を務める東秀訓(ひがし・ひでのり)さんは「すべてのアウトドアの経験や道具が役に立つ」と力説します。
実は東さんは、阪神・淡路大震災の被災者のひとり。当時のリアルな体験をもとに「災害時に役立つアウトドアギア」について詳しく話を聞きました。
災害時に役立つアイテムを肌身離さず持ち歩く
阪神・淡路大震災が発生したのは、1995年1月17日の午前5時46分。まだ夜明け前だったこともあり、東さんを含め、多くの方が自宅で被災しました。しかし、災害はどのタイミングで身に降りかかるか分かりません。東日本大震災が発生した時刻は午後14時46分。大地震が発生した当日、都内では移動手段を失った大勢の人々が帰宅難民になりました。
「自宅に防災用品を備えていても、災害が起こった時、必ず家にいるとは限りません。出先から防災用品の貯えがある場所へ移動するまでの間、行動するうえで役立つ道具を常日頃から持ち歩きましょう」。
具体的には、以下の8つのアイテムを揃えておくと良いと言います。
1.携帯トイレ(水が使えないときに活躍)
2.ヘッドライト(夜間行動の必需品)
3.ファーストエイドキット(簡単な傷を処置する)
4.行動食(数時間の行動に必要なエネルギーを摂取)
5.ウェットティッシュ(水を使わずに汚れを拭き取れる)
6.サバイバルシート(体温を反射させて寒さを防ぐ)
7.ホイッスル(身動き取れない状況のとき、音で居場所を知らせる)
8.虫よけスプレー(夏場、蚊といった虫を避ける)
ここでは、1~5について詳しく紹介していきます!
1.携帯トイレ|生きるうえで欠かせない需要アイテム
阪神・淡路大震災が発生した当時、東さんは地域の高校で国語を教える教員として働いていました。大きな揺れが静まったあと、自宅の被害が少ないことを確認すると、真っ先に学校へ急行。そこでトイレの重要性を実感したと言います。
「登校してくる生徒がいるかもしれないと思い学校で待機していると、多くの近隣住民がトイレを貸してくださいと訪ねて来たんです。当時、地域で断水が発生していて、それぞれの家庭のトイレが使えない状態でした。でも、残念なことに状況は学校でも同じ。仕方なく校庭に穴を掘って埋めるしかありませんでした」。
町中のトイレが使えなくなる。これが大規模災害のリアルな惨状です。
「人間は食べた分だけ排出しないといけません。そのため、携帯トイレは有事の際に必要不可欠なアイテムなんです。小さくて軽いものを数回分持ち歩くようにしましょう」。
2.ヘッドライト|バッテリーパック内の電池に注意
災害時に電気が止まると、日没後は辺りが真っ暗になってしまいます。トイレに行くなど、ちょっとした移動にも光源が欠かせません。
「両手が自由に使える特長から、懐中電灯よりもヘッドライトの方が便利です。登山用品専門店で売られているモデルは、どれも性能十分。持ち運ぶことを考えると、できるだけ軽くて小さいものがいいでしょう」。
ただし、購入したものを鞄の中にずっと入れておくのはNG。特にバッテリーに電池を使うモデルの場合は、電池の保管方法に注意が必要だと言います。
「バッテリーパックの中に電池を入れたまま放置していると、電池内の電解液が漏れ出す“液漏れ”という現象が起こり得ます。液漏れが発生するとヘッドライトが使えないだけでなく、故障する可能性もあるので気を付けましょう」。
手元にあるヘッドライトがいざというときに故障していたら本末転倒ですよね。本体と電池は個々に持ち歩くのが良さそうです。
電池式のヘッドライトとは別に、最近は充電式モデルも売られています。これは専用コードさえあればモバイルバッテリーから充電できる優れもの。近頃、スマートフォンを充電するためにモバイルバッテリーを持っている人は多いのではないでしょうか。モデルを選ぶときに検討してみるといいかもしれません。
3.ファーストエイドキット|使いこなせるアイテムを用意しよう
擦り傷や切り傷などちょっとした怪我に対処するために、ファーストエイドキットも必要です。しかし、中身には何を揃えたらいいのでしょうか?
「中身を考えるうえで大切なことは、そのアイテムを使って実際に傷を処置できるかどうかです。一般的に推奨されているアイテムでも、使い方が分からなければ持っていても意味がありません。誰もが扱えるという観点では、絆創膏がもっとも実用的なアイテムになるでしょう」。
たとえば、救急用品の中身でよく聞くアイテムに三角巾があります。使い方ひとつで包帯やガーゼなど、さまざまな用途に使える便利な道具ですが、扱い方を知らなければ、ただの三角形の布切れになってしまいます。
「これは最初に紹介した携帯トイレにも言えることですが、いずれの道具も使用方法を学んできちんと扱えるようになってこそ、有事の際に役立ちます。ファーストエイドキットの中身を充実させたい場合は、講習会などに参加しましょう。アイテムの種類からその使い方まで、総合的に学ぶことをおすすめします」。
4と5.|忘れがちな行動食。あると便利なウェットティシュ
東日本大震災の発生当時を振り返ると、コンビニやスーパーなどから、あっという間に食品がなくなりました。
「外出先から自宅などまで移動するとき、エネルギーを摂取するための行動食を普段から1~2個持っていると良いでしょう」。
登山用品専門店で売られている商品の多くが、少量で高カロリーを摂取でき、羊羹やクルミ餅といった固形物から水がない状況でも食べやすいジェルタイプなど、さまざまな種類から選ぶことができます。
「災害時は水がとても貴重になるので、ウェットティッシュがあると便利です。汗などでべとつく顔や体を拭いて、気持ちを落ち着けることができます」。
これは薬局やコンビニなどでも購入可能。体以外の汚れも落とすことを考えると、洗顔用のフェイシャルタオルなどではなく、多用途に使える除菌タイプなどを選んだ方が良さそうです。
「その他に、ホイッスルやサバイバルシートなども忘れずに準備しましょう」。
次回は、避難生活で役立つアイテムを紹介します!
教えてくれた人
石井スポーツ登山学校 事務局長
東秀訓(ひがし・ひでのり)さん
高校の国語教師、国立登山研修所職員を経て、現在は石井スポーツ登山学校の事務局長を務める。教員時代から山に登り続け、ヒマラヤの6000m峰や8000m峰の登頂経験を持つ。兵庫県の高校で教鞭を執っていた当時、阪神・淡路大震災が発生。自宅での生活が困難になり、避難所生活を体験した。
石井スポーツ登山学校:山を愛する全ての方々が、「より安全に」「より快適に」登山を楽しんでいただくための学校。登山道具の使い方など、様々な講座を開講中。
https://www.ici-sports.com/climbingschool/
今回取材した商品は、石井スポーツ店舗にて実際に取り扱い中。店舗により在庫状況が異なるため、最寄りの店舗にお問い合わせください。
石井スポーツ|店舗一覧
https://www.ici-sports.com/shop/
今回取材した店舗|石井スポーツ マロニエゲート銀座店
https://www.ici-sports.com/shop/ginza/
石井スポーツ|防災アウトドア
https://www.ici-sports.com/item/bousai/