月が沈んで星数が増すと、やがて山の向こうからカシオペヤが姿を現した。
カシオペヤ座といえば、W字形の星並びで知られる星座だが、こうして文字通りのWとして見られるのは低空にあるときだ。
山あいのこのロケーションは、外灯や通過交通がなく、町の明かりもほとんど影響してこない。
こんな星降る夜は、カメラなど持たずに、双眼鏡片手にゴロリ寝ころんで観望に徹するに限る。……のだが、そう思いつつも、カメラを構えずにはいられないのが写真家のさが。
カメラといえば、今や主流はデジタルカメラ。長らくフィルムカメラを使い続けてきた僕も、近年はすっかりデジタルカメラでの撮影がもっぱらに。撮影現場の様子も変化した。(※出番は減ったが、フィルムは今でも使用している)
フィルムカメラだけで撮っていた頃は、カメラを操作する以外の時間は、星空を眺めている時間だった。
片やデジタルカメラでは、撮った結果を液晶画面ですぐさま確認することができる。だから極端な失敗はなくなったし、トライ&エラーで構図や露出を追い込み、現場で写真の完成度を上げることも可能になった。撮影効率を考えれば、撮る者として、それは喜ぶべきことなのだろう。しかし、その液晶画面を見ている時間分だけ、確実に、生の星空を見る時間が食われているのは事実だ。一天文ファンとして、それがジレンマなのだ。
写真家であるから、“カメラありき”になってしまうのは致し方ない。でもいつの日か、カメラを持たずに、天文少年だったあの頃のように素朴に星空に接したい……と時々思う。(贅沢な悩みだろうか?)
もちろん、高性能なデジタルカメラを手にしたとて、星空に接する時間の価値が変わるわけではない。撮影の合間に見上げる星空は、いつだって美しく、優しく、そして温かい。
カシオペヤ座は、子供の頃、家のベランダからよく見えた星座だ。
あの頃と変わらず、今もこうして輝いている。ただそれだけのことなのだが、僕はそれがたまらなく嬉しい。
星景写真家・武井伸吾
「星と人とのつながり」をテーマに、星景写真(星空のある風景写真)を撮影。著書に写真集『星空を見上げて』(ピエ・ブックス)など。
http://takeishingo.com/
武井さんの以前のお話はこちら。
桜と星空鑑賞のススメ。~夜桜礼賛~
満天の星の下、お気に入りの樹々と過ごす時間。