「徒歩帰宅」を知っていますか?
「徒歩帰宅」という言葉をご存知でしょうか?
東北地方に甚大な被害をもたらした2011年3月11日の東日本大震災。首都圏は揺れによる被害は大きくなかったものの、安全確認等のため電車が止まり、多くの帰宅困難者が出ました。首都圏の鉄道は震災翌日にはほとんど運行再開しましたが、一時は500万人を超える人々が帰宅困難になったといわれています。
バスやタクシー等の代替手段も、各地で起きた猛烈な交通渋滞により麻痺。多くの人々が首都圏から郊外の自宅まで歩いて帰る「徒歩帰宅」を行いました。
災害はいつなんどき襲ってくるかわかりません。今回は、その時に取れる手段のひとつである「徒歩帰宅」を紹介したいと思います。
徒歩帰宅を開始する前に
公共交通機関が麻痺した時、自宅まで歩いて帰る徒歩帰宅。早く帰れるというメリットがある一方で、徒歩帰宅にはリスクが伴います。
- 余震や二次災害の危険がある
- 地震の影響で道路や橋が通行止めになっている可能性がある
- 真夏・真冬の移動は熱中症や低体温症のリスクがある
- 停電と日没が重なった場合、視界がきかなくなる
- 体力的に限界のある距離だと、途中で身動きできなくなってしまう
これらの危険があるので、帰宅・一時移動・待機など、どの選択肢が最も安全なのか判断し、冷静に行動しなければなりません。平時に一度「徒歩帰宅」を体験しておくと、いざという時の判断材料になります。
- オフィスから自宅までの距離がどれくらいあるか
- 体力的にどれくらいなら歩けそうか
- スマートフォンのバッテリーが切れても道がわかるか
一度体験しておくと、いま帰宅して大丈夫か、それとも待機した方がいいのか、冷静に判断しやすくなります。
なお、徒歩帰宅可能な距離のめやすとしては、履き物や体力にもよりますが、
- 〜10km:全員帰宅可能
- 11〜19km:1kmごとに帰宅困難者が10%増加
- 20km〜:帰宅困難
このように言われています。
一時滞在施設や災害時帰宅支援ステーションの活用も
災害時には学校や、区の公共施設などが一時滞在施設として開放されます。
参考:東京都防災ホームページ 一時滞在施設などの情報(https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/kitaku_portal/1005196/index.html)
また東京都を含む9都県市では、コンビニエンスストア、ファミリーレストラン、ガソリンスタンド、自動車販売店等が「災害時帰宅支援ステーション」として開放されます。水道水、トイレ、ラジオでの災害情報の提供が行なわれるので、徒歩帰宅時には強い味方になってくれそうです。
参考:東京都防災ホームページ 帰宅困難者に対する支援(https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/kitaku_portal/1000050/1000282.html)
皇居〜水元公園間の16kmを試走してみました
都心から千葉・埼玉方面の自宅への徒歩帰宅を想定し、筆者(月間走行距離100km程度のファンランナー)が東京都千代田区の皇居〜東京・埼玉・千葉の接点付近にある水元公園までの16kmを試走してみました。今回は徒歩帰宅ではなく「帰宅ラン」、ランニングで移動します。
16kmは「約40%が帰宅可能」な距離、徒歩ではおよそ4時間程度かかると想定される距離です。装備は使い慣れたランニングウエアとウエストポーチ、ランニングシューズを着用。道中でスポーツドリンク1本(600mL)を購入しました。
千代田区皇居、皇居ランナーが行き交う大手門を出発します。時刻は10時過ぎ、快晴でランニング日和です。
スタートから間もなく、総合防災案内板を発見しました。皇居のお堀の内側が災害時の退避場所に指定されているようです。ここから地図の左下方面、日本橋方面へ向けて走ります。
スタートから1.2km地点。首都高直下にきました。このあたりは大手町、三越前、新日本橋と町がめまぐるしく変わります。交通量が多く、高層ビルがぎっしりと立ち並んでいるため、災害後に徒歩帰宅をする際には落下物の要注意ポイントになりそうです。
ここまでは頻繁にスマートフォンで道を確認していましたが、国道6号線に入ったため、この先は地図を見なくても直進するだけで埼玉・千葉方面へ行けるようになりました。迷子の心配がなくなり、安心感があります。
スタートから4km地点。小伝馬町、馬喰町、浅草橋、蔵前を通過し、浅草周辺に来ました。平和な時は景色もよく、走っていて気持ちのいい道ですが、震災時には隅田川にかかる橋が通行不能になる可能性があるため要注意ポイントになりそうです。
国道6号線は言問橋を通りますが、今回は駒形橋と隅田公園を通り、少しだけショートカットします。
隅田公園、東向島を通って四ツ木まで来ました。墨田区と葛飾区の間にある四ツ木橋を通過します。
取材時はよく晴れていたものの、取材前日には千葉県の一部地域に避難指示が出るほどの大雨が降っていました。荒川もかなり増水している印象で、さえぎるものがないため風がかなり強いです。ここも災害時の要注意ポイントになりそうです。
葛飾区の四ツ木、立石を通過し、青戸周辺まできました。この周辺は通り沿いに大きな病院や、災害時には帰宅支援ステーションになりそうなガソリンスタンドやファミリーレストラン、大きめのコンビニ、自動車販売店などがあり、休憩ポイントになりそうです。
15km地点、水元公園の最寄駅である金町駅。金町駅の隣は千葉県松戸駅なので、無事に東京の端まで来たことになります。ここから国道6号線を離れ、水元公園を目指します。
水元公園、到着です。今回は走ったので2時間弱で到着しましたが、歩くとなると、平時でも4時間くらいはかかりそうです。
実際に走ってみた感想
皇居からほぼ一直線に16km走って、水元公園にたどり着きました。
実際に走行してみた感想としては、
- 意外といける。特に序盤の千代田区〜中央区は少し走るだけでどんどん景色が変わるので、達成感があった。
- 「道がわからない」ストレスは思った以上に大きい。目印になる道路(今回は国道6号線)があると安心感がある。
- 大きな川が注意ポイントになりそう。東京湾が震源地になった場合、津波が川をさかのぼってくる可能性もある。通る橋の名前を確認しておき、徒歩帰宅の決行前に通行可能かチェックしておいた方がよさそう。
- 皇居〜水元公園のエリアは、16km走ってアップダウンがほぼない。坂がなく走りやすいが、洪水時には避難できる場所を確認しておいた方がよさそう。
このあたりが思い浮かびました。
徒歩帰宅をして、災害時の判断材料を増やしておこう
いつなんどき襲ってくるかわからない災害。オフィスや出先にいるときに「帰れない」となったら、まして子供やペットが家で留守番しているなど絶対に帰らなければならない事情があったら、冷静な判断ができなくなる可能性も十分にありえます。
一度、何もない平時に歩きやすい靴で「徒歩帰宅」「帰宅ラン」をしておくと、いざという時の冷静な判断に繋がります。気候のいい春の日に、ぜひ一度試してみてください。