春の星座探しの基点は北斗七星
北の空から天頂にかけて北斗七星を見つけたら、柄杓のラインを南の空へ下ろしてくると、うしかい座のアルクトゥールス、おとめ座のスピカ。この2つは1等星なのですぐに見つかるでしょう。これが春の大曲線です。
春の大曲線からスピカを見つけたら、せっかくですから、そのまま少し先まで伸ばしてください。そこに4つの暗い星でできた、からす座があります。地味ではありますが、一度見つければ覚えやすい星座ですよ。
アルクトゥールスとスピカが見つかったら、次に春の大三角形をつくります。春の大三角形は、ほぼきれいな正三角形なので、アルクトゥールスとスピカを結んだ線を1辺として、だいたい正三角形になるところにアタリを付けます。そこにあるのがしし座の尻尾、デネボラという2等星です。
デネボラが見つかったら、その少し西側にレグルスという1等星があります。前足のあたりです。そこまでくると、クエスチョンマークを左右逆にしたような形の「ししの大鎌」が見つかります。
大きな熊おおぐま座のたどり方
北斗七星が有名すぎて、大熊の形はあまり関心を持たれていないようですが、この季節、おおぐま座の全体像もたどってみたいものです。北斗七星は大きな熊の腰と尻尾に過ぎません。
おおぐま座は全天で3番目の面積を持つ大きな星座です。しし座が見つかったら、「ししの大鎌」と北斗七星の間に注目してください。暗い星ですが2つの星のセットが3組、並んでいます。これが大熊の足の爪先の方です。昔のアラビアでは、これを3回跳ねたガゼルの足跡に見立てることもありました。現代では、後ろ足から前足へ向かって、ホップ、ステップ、ジャンプと三段跳びで表現する人もいます。そんなリズミカルな(?)3組のペアから北の方へ脚を伸ばしていくと、だいたい大熊の全貌が現れてくると思います。
春に大型星座が多いわけ
春の空は、大きな星座が多いのが特徴です。
おおぐま座が3番目。全天でいちばん大きいうみへび座は、しし座の下にいて、うねうねと西の方へ続きます。星図を見ると、うみへびの頭は、冬の星座こいぬ座を狙っているけれども、尾のほうは夏の星座さそり座に狙われているという、冬から夏まで渡るスケールの大きな星座です。そして2番目に大きな星座はおとめ座です。大きな乙女です。
大きな星座が多い理由は、春の夜空は天の川から遠いからです。星は天の川に沿って集まっているので、天の川に近いほど明るくて目立つ星も多く、狭い範囲でたくさんの星ををつなぎやすくなります。冬のオリオン座は存在感がありますが、面積はおおぐま座の半分もありません。逆に言えば、天の川を離れるほど星が少ないので、星と星の間隔も広く、それをつないだ星座も大きくなりがちです。
うしかい座としし座の間に、ぼやぼやっとした星の集まりが見えるのが、かみのけ座です。ぼやぼやと見えるのは、星が集まっている星団だからです。おうし座のすばるのような広く知られた名前はありませんが、星団そのものが星座になっている珍しい星座です。
とても地味ではありますが、天の川から一番離れている星座として天文学的には外せない星座でもあります。この方角は天の川の影響が少ないため、遠くの銀河がよく見える観測スポットです。望遠鏡を持っている方は、かみのけ座の方角に注目してみてください。
5万年後の空では夫婦星が大接近
春の代表的な星座のひとつ、うしかい座の1等星は面白い星です。アルクトゥールスという名前は、牛飼いなのに「熊の番人」という意味です。
アルクトゥールスは全天で4番目に明るい星であり、また際だって動きの速い星として知られています。
恒星はその字の通り、動かない星ですが、実は長い目で見ると少しずつ動いています。もちろん人間の一生の間には動いては見えませんけれど。
恒星も動いていることを発見したのはイギリスのエドモンド・ハレーです。1718年、ギリシャ時代の星の観測記録と18世紀の観測を比べて、明らかに星の位置が動いていることを発見したのです。
ハレーはハレー彗星の発見者として知られますが、優れた天文学者であり、アイザック・ニュートンの友だちでもありました。ニュートンが近代科学の名著『自然哲学の数学的諸原理(プリンキピア)』(1687年)を出版できたのは、ハレーが熱心にニュートンに執筆を薦め、さらには資金的にも援助したからだと伝えられています。また、ハレーがハレー彗星を発見し、75年周期で帰ってくることを予測できたのは、ニュートンの理論のおかげです。
アルクトゥールスに話を戻します。天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータ」で未来に時間を進めていくと、アルクトゥールスがスーッとおとめ座の方向にものすごい速さで移動していくのがわかります。
5万2000年後になると、おとめ座のスピカのすぐ近くまで移動し、もはやうしかい座ではなく、おとめ座の星になっています。この2つの1等星は、昔から夫婦星(めおとぼし)という愛称がありますが、5万2000年後にはまさに夫婦のように近くなっています。
5万年後の空では、北斗七星は柄杓の柄がちょっと折れていますが、ほぼ形を保っています。両端を除く5つの星がほぼ同じ方向に動いていることは、同じ星団から生まれたことを示していると言えます。オリオン座の形はきれいに残っています。あとはベテルギウスが残っているかどうか、が気になるところです。そんな遠い未来を想像しながら星を見上げるのも楽しいものです。
構成/佐藤恵菜