はじめての塩の道あるき vol.3〈千国編〉
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    2016.07.04

    はじめての塩の道あるき vol.3〈千国編〉

    私が暮らすのは、人口約3000人の小谷村。その人口以上の観光客(!)が訪れるという、村いちばんのイベントが「塩の道祭り」。GWのスノーシーズン終了とバトンタッチをするように、毎年5月3日に開催され、グリーンシーズンの訪れを告げるのです。第3回はその塩の道祭りが行われる下里瀬(くだりせ)〜栂池(つがいけ)コースを、今年のまつりの様子を交えつつレポートしますね。あ、いま地名のルビを書いて思い出しましたが、小谷と書いて(おたり)と読みます。最初は読めなかったのに、半年も暮らすとつい慣れてしまっていました!

    スタートの下里瀬は、道沿いに住宅や商店が並んでおり、山間の小谷村では珍しい平地にある宿場風情の残る集落。その並びに古びた家が1軒。ここにウォルター・ウェストンが投宿したと言われています。ウェストンは明治時代にイギリス人宣教師として来日し、当時はまだ日本に芽生えていなかった“楽しむ登山文化”を伝えた人物。明治27年には白馬岳に登頂したので、その頃に小谷にも立ち寄ったのでしょうね。

    ウェストンが投宿した家。案内板は特にないので知る人ぞ知る存在。

    ウェストンが投宿した家。案内板は特にないので知る人ぞ知る存在。

    塩の道祭りの出発式が行われるのは、下里瀬の薬師堂。ここでは糸魚川から運ばれた塩を確認する「塩検め」のセレモニーが行われますが、小谷村村長は悪代官(?)の装束で登場。小芝居で観光客をなごませていました。ここの薬師堂には目の神様が祀られています。

    下里瀬の薬師堂。赤い帽子と襟巻きは地元の方のお手製。

    下里瀬の薬師堂。赤い帽子と襟巻きは地元の方のお手製。

    今回のタイトルにもある千国(ちくに)というのは、現在の地名でもありますが、鎌倉時代には広く白馬村から小谷村一帯を指していました。江戸時代には松本藩の口留番所が置かれるなどこの地域の要所として発展した歴史があります。下里瀬、虫尾、土倉などの集落を結び、番所や宿など当時の建造物が残っているという点でも、塩の道祭りのコースに選ばれているのです。

    塩の道祭りの来場者は装束を纏った歩荷隊とともに歩く。私も今年は村娘の格好で歩きました(照)。

    塩の道祭りの来場者は装束を纏った歩荷隊とともに歩く。私も今年は村娘の格好で歩きました(照)。

    最初の集落は虫尾。中心には阿弥陀堂と庚申塔群があります。青面金剛、太陽と月、3匹の猿、2羽の鶏のモチーフが珍しくはっきりと残っているものも見つかります。このコースは特に保存状態のいい石碑や石仏が豊富なのです。

    すでにおなじみの庚申塔の他にも、寺子屋の師匠を偲ぶ記念碑の「筆塚」、いまで言う女子会にあたる「二十三夜塔」、子どもを守る「鍾馗(しょうき)様」、馬を祀る「馬頭観音」、牛を祀る「大日如来」、西国三十三観音に前山百体観音、小土山石仏群に大別当石仏群……。いまではのーんびりハイクしているこの道も、昔は旅人が行き倒れたりと厳しいものだったそう。山肌に開墾した豊かとは言えぬ土地と険しい道。小谷のひとたちが信仰を持ち協力し合いながら生活を営んでいたことが垣間見られます。

    中央に青面金剛、その周りのモチーフもしっかり残っている。

    中央に青面金剛、その周りのモチーフもしっかり残っている。

    小土山石仏群。昭和46年にはここから地滑りが起こり大惨事となった。

    小土山石仏群。昭和46年にはここから地滑りが起こり大惨事となった。

    小土山石仏群近くにある鍾馗様。細い線彫りで描かれている。

    小土山石仏群近くにある鍾馗様。細い線彫りで描かれている。

    虫尾には「阿弥陀様の岩清水」と呼ばれる湧水があり、道歩きの喉を潤してくれます。この後にも、大別当の湧水や弘法の清水などがコース上にあります。雪解けの水は口あたりもまろやか。道沿いにはオドリコソウやヒトリシズカなど愛らしい野花。厳しさもあれば、自然がもたらしてくれる恵みも多いのです。沢のせせらぎの涼やかな音も耳に心地いいですよ。

    虫尾にある阿弥陀様の岩清水。

    虫尾にある阿弥陀様の岩清水。

    ヒトリシズカは名前そのままに可憐な姿。

    ヒトリシズカは名前そのままに可憐な姿。

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