【写真家・関健作さんに聞く:後編】ブータンの人たちは、自分にないものを持っていた
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    2016.08.24

    【写真家・関健作さんに聞く:後編】ブータンの人たちは、自分にないものを持っていた

    日課である牛の世話中に休憩するサンドゥルップさん。今年(2016年)92歳。

    日課である牛の世話中に休憩するサンドゥルップさん。今年(2016年)92歳。

    ヒマラヤの小国ブータンで、青年海外協力隊に派遣された体育教師として3年間を過ごした後、写真家に転身した関健作さん。インタビューの後編では、写真家として、そして同じ人間として、関さんがブータンの人々に惹かれる理由についてお話を伺いました。

    ——関さんのお話を伺っていると、ブータンの人たちって、ポジティブ・シンキングというか、自分に自信のある人が多いみたいですね。

    関健作さん(以下関):彼らは自己肯定感がすごく高いなあと思います。自分が大好きです。セルフィー(自撮り)も撮りまくりですね。

    ——自分以外の人に対しては?

    関:他人に対しては、そりゃ好き嫌いはあります。それでも、狭いコミュニティの中でうまくやっていく術は心得ていますね。まあ、そういうのもバレバレなんですけど。ゴシップ(噂話)がすごいんですよ、ブータンは。ゴシップ自体が娯楽なので。AさんとBさんとCさんがいて、AさんとBさんが一緒の時はCさんの噂をする、AさんとCさんはBさんの噂を、BさんとCさんはAさんの噂を……そういうのばっかり続けているんです。

    ——そういう中にいると、関さんも何かと気を遣いそうですね。

    関:いやあ……すげえめんどくせえと思いましたよ(笑)。

    ブータンの野菜市場。商売よりも会話に夢中。

    ブータンの野菜市場。商売よりも会話に夢中。

    ——日本ではブータンは「幸せの国」というイメージで見られてしまっているので、現地にいるのはみんな高潔で清らかな人たちみたいな想像をしてしまいがちですけど、実際は、すごく人間くさい人たちなんですね。

    関:そうなんですよ。みんな普通の人だし、自分の感情に正直な人が多いです。そもそも「幸せ」という意味の言葉自体、ゾンカ語にはありませんし。ブータンは世間でよく言われているような「世界一幸せな国」ではなくて、「自分たちなりの幸せを追求しようとしている国」です。そのための政策として、GNH(Gross National Happiness:国民総幸福量)という概念が用いられているんです。ブータンの人たちがみんな幸せなのかといえば、そんなことはないですよ。

    ——社会的に、難しい課題もあるみたいですね。

    関:勉強に失敗したり、就職先が見つからなかったりで、自信を失って劣等感を抱く若者が多いですね。自殺する人の数も増えています。恋愛に関して寛容すぎるからか、離婚率もめちゃくちゃ高いです。あとは、親子関係で問題を抱えている人も結構います。ブータンでは、子供の面倒をちゃんと見ない親が多いんですよ。たとえば、学歴の高い人が奨学金をもらうなどのチャンスをゲットしたら、子供が生まれたばかりだったとしても、その子を親戚とかに預けて、チャンスの方を選んでしまいます。もちろんそうでない親もいますけど、親の愛情をあまり受けられずに育った子供は多いんです。

    トウモロコシを貪る少女キンレー、今年(2016年)7歳。無邪気で明るい少女。

    トウモロコシを貪る少女キンレー、今年(2016年)7歳。無邪気で明るい少女。

    ——ブータンでもいろいろあるんですね……。そうして、いい面もそうでない面も含めてブータンのことをずっと見てきた中で、関さん自身は、ブータンのどんな部分に惹かれているんですか?

    関:ずっと思ってたんですけど……彼らは、僕にないものを持っているんです。僕が最初にブータンに行きたいと思ったのは、テレビで彼らの笑顔を見たからでした。その頃の僕は精神的に落ち込んでいたんですが、自分の中にはなかったその笑顔に惹きつけられて、僕はブータンを目指すことにしたんです。で、行ってみると、ブータンの人たちは、無条件にと言っていいくらい自己肯定感が高かった。僕自身は自己肯定感がすごく低い人間だったので、その差にはびっくりしました。あと、僕は昔から人とのコミュニケーションがうまくできずに悩んでいて……。

    ——そうなんですか? 今こうして話していてもそんな感じは全然しないので、ちょっと驚きました。

    関:苦手だったんですよ。ぎくしゃくして、相手の顔色も窺ってしまって。でも、ブータンの人たちとの会話は、すごく楽しかった。みんな人を喜ばせるのがうまいし、楽しそうに人付き合いをしているんですよね。それまでの自分になかったものを全部持っているブータンの人たちに、僕は純粋に憧れたんだと思います。

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