キャンプブームが続く中、山を買うことも注目を集めている。「自分の山」という響きは、アウトドア好きには憧れるものがある。自分の山であれば、誰にも気兼ねせずに遊べるのは自由で楽しい。山の価格は地域によってはタダ同然というものもあり、懐具合を気にせずに買えるかもと前のめりにもなる。しかし、実はデメリットも。自身も山を買おうとして断念した経験から注意点を紹介する。
買いたいのは山々ですが、山を買うリスクって何?
福岡県と大分県の県境にある里山に住んでいる筆者は、数年前に山を買おうとした。山を走るトレイルランニングが好きで、自分の山を持ってコースを整備できたら楽しいだろうと、軽い気持ちで山を探し始めたのだ。
世話になっている先輩が不動産業を営んでいたこともあり、相談してみると「山はいくらでもあるよ」とすぐにでも見つかりそうだ。場所にもよるが、僕の住む福岡の東端にある小さな町の里山なら、購入価格は「100円でも、500円でもいいから」と、ほとんど値がつかないこともある。場所によっては購入価格は「ワンコインでいい」と言われて、一万円札があれば山がいくつ買えるだろうかと有頂天になった。
一気に舞い上がったものの、そこから落ちるのも早かった。
「山は怖いぞ。リスクもあるからな。まあ、お前が本気なら大丈夫か」と先輩がポツリとつぶやく。そんなことを言われると、契約書にサインするのが怖くなる。どんなリスクがあるというのか……。
巨額の賠償金、それどころか人命に関わることも
山を所有するということは、自由に使えると思われがちだが、実際はそんなに単純なものではない。ご存じない方も多いと思うが、山を所有すると、森林法などの法律に従わないとならないので、様々な許認可が必要で、使い方に規制がある。むやみに木を伐採することもできないし、伐採するのであれば作業前、作業後に行政への届出が求められる。さらには、しっかりと管理する責任や義務も生じる。
山を所有したら、その山を管理する義務がある。これはなかなか責任が重い。
「動かざること山のごとし」などと格言になっているが、山のなかは意外と動きがある。そして、どっしりと大きな分、動きがあったときは規模や影響も大きくなってしまう。
起こりうる危険性のなかでも、イメージしやすいのが土砂災害だろう。集中豪雨や長雨で地盤がゆるみ、斜面が崩壊してしまう。その下に、他人の土地があったとしたら……。
自然災害で不可抗力にも思えるし、自分も被害者なのでは?と思えるが、場合によっては土砂の撤去を求められると応じなくてはならない。その費用負担に加えて建物に損壊があれば、賠償責任が発生することもある。最悪の事態となると、人命が損なわれてしまう。そうなると金銭の痛手どころではない。
もちろん、万が一の事態など起きないように、しっかりと管理できれば問題ない。定期的に山を見回って、なにか問題が起きそうな場所をチェックして、そんな箇所があれば対策をとればいい。口で言うのは簡単だが、実際に自分ができるだろうか。広大な山のすみずみまで目を光らせるだけの時間をつくるか、それを人に任せるだけでの金銭的余裕がないと管理は難しい。自分の管理次第で、人の命に関わるというのは、安易に手を出していいのかと考え直すのに十分なインパクトがあった。
維持管理も負担は大きい。バカにならない労力
いざ自分の力で山を管理するとなっても一筋縄ではいかない。鮮やかな緑を眺めて心を癒されていたのが、いざ自分で整備するとなると、うんざりさせられるなんてことも。春から秋にかけては、下草がぐんぐん育つ。ついこの間、汗だくになって刈ったはずなのに、どうしてもこんなに伸びているのだろうと嘆きたくなるほどに大きくなる。台風や大雪の後には、バタバタと倒木だらけで途方に暮れる。
倒木の撤去や木の伐採は、個人でやるには負担が大きいし、事故につながる危険もあって、十分な技術や知識がないと手を出しづらい。チェーンソーや重機の扱い方を学び、熟知するには、まとまった時間と手間が必要になってくる。
山を買い、そこで遊ぼうと思うと、それなりの労力が求められるのだ。そこまで本気でできるだろうかと自問自答して、弱腰になっていった。結局、山は買っていない。
これから山を購入しようと思っている方には、山を所有することの大変さも知っておいていただきたい。