フィンランド東部の北カレリア地方にあるコリ国立公園は、森と湖の国と呼ばれるフィンランドの象徴的な景色を見られる場所として、国内で最も有名な国立公園です。その景色は芸術家達にも多大な影響を与え、フィンランドを代表するクラシック音楽の作曲家のジャン・シベリウス、画家のエーロ・ヤルネフェルトや作家のユハニ・アホなどがそこからインスピレーションを得た作品を残し、それはフィンランド人にとっての国家的風景となりました。
夏は澄み切った青色の湖とそこに浮かぶ島々、巨大な岩山と生い茂る木々がどこまでも連なりますが、冬の間は湖が凍って樹氷が姿を現し、夏とはまた違う美しさを見せてくれます。コリ国立公園のエンブレムには白樺の木と焼き畑農業が描かれていますが、国立公園内にあるビジターセンターでは、森の生態展示に加えて伝統的な焼き畑農業についての展示もあり、森と人々の関係について知ることができます。
ビジターセンターのすぐ隣には、スキー場とスパホテルが隣接されています。展望台はビジターセンターから300メートルほど森の中へ入ったところにありますが、雪が積もっている間はスノーシューか滑り止めのついたスノーブーツで歩くと安全です。
フィンランドで4番目に大きいピエリネン湖とそこに点在する島々を一望出来る展望台が、公園内で一番標高の高い347メートル地点にあるウッコ展望台です。ここからの景色が湖と森の国フィンランドを象徴する原風景といわれるもので、森との生活や信仰が描かれたフィンランド神話が書かれた頃のような風景を現在でも見ることが出来るともいわれています。
ウッコ展望台の裏手にあるのがアッカ展望台です。そこにはほとんど湖の姿はありませんが、広大な樹海を眺めることができます。どの展望台にも柵のようなものはなく、ありのままの自然の姿が残っています。
展望台に行く道の途中で、サルオガセが木の枝から長く垂れ下がっていました。これは糸状の地衣類(菌類と藻類からできた共生生物)で、樹皮に付着しているのですが、空気中の霧などから水分を吸収して光合成を行っています。そのため、空気の澄んだ綺麗な場所でなければ育つことは難しく、フィンランドでもサルオガセは自然環境が良いことを示すサインでもあります。雪解けが始まって雪が固くなるとトナカイはエサを掘り出すことが難しくなるため、サルオガセはトナカイの大切な食料にもなります。
フィンランド東部にはブラウンベア(ヒグマ)が生息していますが、普段人の前に姿を表すことはめったにありません。人々にとって熊は最も神聖な生き物で、森の王であり、人間の祖先の化身とされています。フィンランド語ではカルフと呼ばれていますが、その他にも様々な呼び方があります。
国土の7割以上を森が占めるフィンランドは、森林先進国として持続可能な森の管理と利用についての調査・研究が進められています。また、人々は森を遊びの場、癒しの場、信仰の場としても、人間の生活になくてはならないものとして大切にしてきました。コリ国立公園の大自然の景色は、そんな人々と森の深い関係についても見せてくれる場所でもあるのです。
取材協力 / フィンランド政府観光局
文・写真/東海林美紀