今回の塩の道あるきは地蔵峠越え。塩の道には、西廻りと東廻りのルートがあることを以前書きましたが、その東廻りにはさらに2つの道があります。1つは姫川沿いの「千国街道」と呼ばれる元禄時代以降の新しい道。もう1つが「千国古道」と呼ばれる古代からの道。新道は青地に白文字の「塩」、古道は薙鎌で示している道標での見分け方は第2回の「大峯峠」でおさらいをしてくださいね。
この地蔵峠は千国古道にあたります。千国街道は姫川沿い=国道148号線に近いところを通っているため塩の道へ比較的アクセスしやすいのですが、古道は山深い小谷でもさらに奥深くにあります。公共交通機関がある場所まで徒歩だと数時間かかるので、出発地と到着地に配車しておかなければ踏破が難しいルートです。ですので、専門ガイドをお願いすることを強くおすすめします。
というわけで、先発と後発チームに分かれて、車で出発地点の北小谷・深原集落よりさらに上がった地蔵峠口まで向かいます。澤渡会長率いる後発チームは到着地点となる長者平に配車してからのスタートです。私を含む先発を率いてくれたのは、女性ガイドの伊与田さん。彼女は山菜のことも詳しいので、歩きながら美味しいもののことをあれこれ聞いてしまいます。
現在では生活や物流の道として使われていない古道は、大峯峠や千国越えのような人里を通らないため、道祖神や庚申塔のようなわかりやすい史跡があまりないのが特徴。でも上杉軍vs武田軍の攻防にまつわる逸話があります。「貝の平」は武田軍に攻められている平倉城へ援軍が来たことを知らせるために貝を吹かせた場所。でも時すでに遅し。平倉城は陥落した後。その少し先にある「地団駄」では平倉城に火の手が上がったのを見た援軍が、文字通り地団駄を踏んだと言われています。ここから跡杉山までずらーっと援軍の隊が続いていたというのに……。道標しかありませんが、「こんな山道歩いてきて、間に合わなかったなんてがっかりだよなぁ」と想像すると、ちょっとお気の毒。
歩いたのは5月下旬なので、イワカガミやウツギのオオカメノキといった季節の花も咲いていました。今シーズンは村の観光連盟になぜか問い合わせが相次いだという山荷葉(サンカヨウ)の花も。この花、朝露に濡れると花びらが透明になるということで、ネットニュースなどで話題になっていたようです。
ほどなく地蔵峠に到着。地蔵堂には2体の地蔵菩薩が祀られています。ここは標高1036mの開けた場所になっているので、姫川が流れる北小谷の景色を眺めながらお昼ごはんをとるのもおすすめ。地蔵峠を少し下ると、「乳房の木」と呼ばれる巨木があります。ハリギリの木なのですが、よく見ると幹に大きなコブが。母乳が出ないひとたちの信仰の対象になっていたそうです。
地蔵峠越えコースは地蔵峠のほかに、大峠も越えます。こちらは標高約1200mと塩の道の最高地点となっています。標高ほぼゼロの海辺から1200mの峠へ。この高低差も塩の道あるきの厳しさを物語っています。大峠で後発チームを待つ間、跡杉山の頂上へ行ってしまおうとなりました。こちらは標高1285m。「遊歩道」と案内板がでていましたが、藪を分け入る道。遊びながら歩くなんて優雅なものじゃありませんでしたが、今年は暖冬でシーズン終わりが早かった根曲がり竹の名残を見つけられてラッキー。
歩いてみて感じたのが、これまでの人里を通る3つのコースとは異なり、本格的な山歩き感がありました。塩の道の会のみなさんや地元の方々が整備をしているので道はついていますが、1人ずつしか行けない細い崖道やロープを伝って下る道などがコース上にあります。塩の道マニア(?)のかたが「小谷の塩の道を歩くと、白馬以南のコースは物足りなくってさ〜」と言うのもわかる。
車道や人里と隔絶された道を歩く。ここを重い荷を背負って通った古のひとたちが見た風景がそのまま残る道。上手く言えないのですが、レクリエーションとしての登山とも違い、ひとびとが生活のために歩いた道ということが、道自体の面白さにつながっているのかなと、ちょっとずつですが思い始めています。
※このコースは健脚向けです。専門ガイドをお願いするのがベターです
※塩の道の歩く際には、トレッキングシューズや雨具など山歩きの装備をしましょう
※ハチやクマなどに遭遇する可能性もあるので、対策は怠りなく
※山道だけでなく、住宅街や一般道も通るので車に注意をしましょう
■「小谷 塩の道の会」
・年会費:1000円
・参加費:1000円(保険代込、集合場所の小谷村役場までの交通費は実費負担)
・問合せ先:小谷村観光連盟 0261-82-2233
http://www.vill.otari.nagano.jp/kanko/index.html
文・写真/村岡利恵
(元女性誌編集者。都会育ちのアウトドア初心者なのに15年小谷村に移住。hutte muu muuとしても活動開始)