8月後半に極大を迎えるはずだったミラが……
この8月、天文ファンの間で注目されていた天文現象のひとつが、「くじら座の変光星ミラが極大を迎える」ことでした。極大というのは一番明るくなる時期のことです。
くじら座は、牙と鋭い爪のある前脚をもつ、得体の知れない化け物の星座です。海から陸にはい上がってきたような姿は、くじらというよりゴジラに近いですね。
明るい星が少ないので目立たない星座ではありますが、その心臓部にあるミラは、世界で初めて発見された変光星として有名です。16世紀には、明るさが変化することがわかっていました。当時はもちろん理由がわからず、「不思議なもの」を意味する「ミラ」と名づけられたのです。
変光星にはいくつかタイプがありますが、ミラは「脈動変光星」と呼ばれ、星自体が膨らんだり縮んだりすることで明るさが変わります。まさに心臓のように脈動しており、色はオレンジっぽく、星の寿命が迫っていることを示しています。脈動変光星は、縮んだ時のほうが明るくなります。膨らむとその分、表面温度が下がり暗くなります。
ひょっとして1等星に!?で盛り上がった2021年夏
ミラは332日周期で脈動し、明るさの変光範囲は2〜10等星とされています。ただし、2等まで達することは珍しく、極大時でも3等前後にとどまることが多いです。今年は8月23〜30日の間に極大を迎えると予想されていました。
ところが、7月半ばに3等まで明るくなっていることが発見、報告されました。増光中のミラは1日に約0.1等のペースで明るくなるので、そのままでは8月下旬には1等星になってしまうことになります。そんな前例はめったにない一方、変光周期が多少早まったり遅くなったりすることはよくあるので、2021年のミラは1か月早く極大を迎えたのだろう、とこの時点で考える専門家もいました。実際、7月下旬には増光が落ち着いているようにも見えました。
ところがところが、8月に入ってもミラは増光を続け、一時は2等星になっていました。これはもしかすると歴史的な大増光では、との期待もありましたが、残念ながら増光はそこでストップ。どうやら8月上旬がピークだったようで、今ミラはゆるやかに減光中です。
月食や日食、木星と土星の大接近などは何百年も先まで予測できるのに、変光星の変化については1か月先の予測さえ外れてしまうのです。
昨年、オリオン座の1等星ベテルギウスが大減光して、いよいよ爆発か!? と心配され、その後また明るさを取り戻して話題になりました。この時も予測はできませんでした。天文学がどんなに進化しても、変光星の変化は予測しがたいものがあるのです。
言い換えれば、だからこそふだんの観察が重要になってきます。実際、今回のミラの明るさを観測して報告しているのも、ほとんどがアマチュアの観測者たちです。
数年に一度の明るいミラを観察するチャンス
変光星の観察は、天文研究者が行なっているそれと基本的に同じようなことです。しっかりその目で見て、記録につけることは自由研究としても素晴らしいですし、大きな発見につながる可能性だってなくはありません。
特にミラには、予測できないものを見る楽しさがあります。天体観察には、日食や月食など、何がいつ起こるかわかっている現象を捕まえて、その通りになるのを見届ける楽しさもありますが、脈動変光星の観察にはそれとは違う楽しさがあります。
今回のミラはすでに極大を迎えてしまった可能性が高いですが、依然として数年に一度の明るさであることは間違いありません。また、数日にわたって観察して、明るさの変化を確認できるか挑戦するのも面白いでしょう。
いちばん基本的な観察方法は、近くの星の明るさと比較することです。
くじらの頭にメンカルは2.5等星。尻尾のディフダ2.0等星、喉元にある星は4.1等星です。くじら座の星図はウィキペディアにも載っているので、それをコピーして記録をつけてもいいでしょう。双眼鏡があればベストです。個人の記録はささやかなものかもしれませんが、こうした記録の積み重ねが、科学の進歩の一歩一歩を支えているのだと思います。
夏休みは終わらない!木星と土星と月の大接近も
肉眼で観察できる天文現象としては、木星と土星と月の接近があります。木星が見頃を迎えています。8月20日〜22日は月が接近。満月の22日は木星に大接近します。月が満ち欠けしながら土星から木星のほうへ横切っていくのが観察できます。
望遠鏡があれば、木星のガリレオ衛星(4つの主な衛星)が互いを隠し合う相互現象を観察する絶好のチャンスです。
お子さんの夏休みの自由研究にも、くじら座の変光星ミラ、木星、土星、月の大接近の観察はおすすめです。ぜひトライしてみてください。
構成/佐藤恵菜