自然の中に宝の山を見出し
自然のリズムを感じながら暮らす
丸太や枝、建築廃材などが山積みになったエントランスを抜けると、ガラス張りのサンルームが見えてくる。ここは、丹沢北部の山々に囲まれた、ネイチャークラフト作家、長野修平さんのアトリエ兼自宅。
棚には金槌や電動工具が雑然と置かれ、壁には刃物類が行儀良く掛けられている。木箱に収められたクギやヒモの類、削られた木屑(焚き火の焚き付けに使用)に至るまで、無駄なものは何ひとつない。
自然の恩恵とともに、日々の暮らしや、クラフト製作を楽しんでいる長野さんは、日常的に庭の伸びた草を刈り、樹木の枝を剪定する。ときには裏山で蔓を払ったり間伐したり。そうした野良仕事すべてが「素材集め」でもある。鳥の羽根や木の実、貝殻など、自然の落とし物も然り。
「キャンプに行ったときも、宝物を探すように身の回りを見ていると、どんどん材料があふれ、創作意欲が湧いてくる。自然界にあるものすべて、宝の山ですよ」
そのお宝をどう暮らしに取り入れているのか。
「もともとの素材感を活かすほど、ナチュラル感が出ると思うんです。板よりも丸太、丸太でも皮がついたもの。同じ竹細工でも、表皮がついたままのほうが、より自然の風合いを楽しめる」
何を作りたい、よりも、形を見て、その形に合わせて「作る物」を見立てるのが楽しいのだと話す。
長野修平さんの3つのこだわり
1 自然のものをそのまま取り入れる
2 自然の形に合わせて作るものを考える
3 何度も活用できるようにする
「この枝の二股はフックにいいなとか、この流木は幅が広いから棚にとか、なるべく加工しないで作るのが大事。自然を模写して作るんじゃなく、自然をそのまま持ち込みたい。なおかつ、観賞用ではなく、使われることを前提にした“用の美”が好きなので、いつでも生活に必要な物を作っています」
長野さんの自宅には自然があふれている。枝を利用したコートハンガーにシーグラスのライト。どれも道具として機能している。
今回は、そんな自然を家に持ち込むための、長野流の道具作りを教わる。
「人工的な素材は劣化するけど、自然素材は使うことでエイジングされ味が出る。オイルを塗ったりと手入れは必要だけど、それも楽しい。まずは身の回りの素材探しからはじめてください」
長野さんが自然素材で作った「ナチュラルな家具」
二股の枝で作る「壁掛けフック」の作り方
用意する道具類
作り方
1 枝から使いたい二股の部分を切り出す。
2 モノを掛けるほうを少し短めにするとバランスがいい。枝の太さはお好みで。
3 壁側になるほうを縦に割る。刃を枝の中心に当てて割り取り、平らにする。なるべく真っ直ぐな枝を見立てておくと楽。
4 凹凸がある場合は、斧で断面を小刻みに削って平らにならす。刃が丸いと中心部がやや凹むが、壁にかけたときにちょうどいい。
5 枝の先端はナイフで削って角を取る。紙ヤスリなどはかけないほうが、ナイフの跡が残り、手作り感が増す。
6 平らに削った面に、釘などへ引っ掛けるための穴を開ける。ドリルの刃を木に対して45度の角度で当てること。
7 樹皮をタワシで軽くブラッシングし、余分な木屑などを落とす。樹皮の目に沿って擦ると汚れがきれいに落ちる(写真の木の場合、樹皮の目は横向き)。
8 エゴマオイルを塗って全体を磨き、艶を出す。エゴマやクルミなどの乾性油を使うと、乾くと固まるので水にも強くなる。
二股の枝を支柱にした「カップボード」の作り方
作り方
1 枝の二股部分を2本切り出す(同じ長さに)。二股の枝の先で棚板を支えられるように真っ直ぐ切る。
2 土台の板に取り付ける小枝を数本切り出す。ストッパーになるよう、二股部分を少し残しておく。
3 土台になる板と棚板(サイズはお好みで)の周囲をナイフで削り、角を取っておく。
4 土台に棚板の位置と二股の枝を取り付ける位置を印付け、木ネジを打つ箇所にガイド穴を開ける。
5 ガイド穴に沿って、土台の裏側から木ネジを打ち、二股の枝と棚板を取り付ける。
6 土台の板に等間隔に穴を開け、小枝フックを差し込む。穴は枝より小さくし、枝先を削りつつ差す。
※構成/大石裕美 撮影/鍵岡龍門
(BE-PAL 2021年9月号より)