インド北部、ヒマラヤ山脈の西外れに位置するチベット文化圏、ラダック。ここには今も各地にチベット仏教のゴンパ(僧院)が点在していて、ラダックの人々から篤い信仰を集めています。
それらの中でももっとも有名なゴンパの一つが、ヘミス・ゴンパ。17世紀、当時のラダック王国の菩提寺として建立されたこの僧院には、現在も数百人の僧侶が所属し、日々修行に励んでいるそうです。
このヘミス・ゴンパでは、年に一度、チベット暦の5月10、11日(太陽歴では6、7月頃)に、ヘミス・ツェチュと呼ばれるチャム(仮面舞踊)の祭りが催されます。中でも12年に一度、申年にあたる年の祭りの時だけ、通常の年の祭りでは見ることのできない幻の巨大なタンカ(仏画)がご開帳されるのです。2016年はちょうど申年。幻の巨大タンカとはどんなものなのか、拝見してくることにしました。
本堂の壁に掲げられた、12年に一度だけ見ることのできる巨大なタンカ。描かれているのはグル・リンポチェ(パドマサンバヴァ)という伝説的な密教行者のお姿です。この巨大タンカは、ヘミス・ツェチュ初日の未明にご開帳されますが、午前中のうちにしまわれてしまいます。12年に一度、ほんの半日ほどの時間でのご開帳。そのせいか、この日のヘミス・ゴンパには、いつにもまして大勢の地元の人々が拝観に訪れていました。
ゴンパの中には、グル・リンポチェの大きな像を祀ったお堂もあります。グル・リンポチェは8世紀頃にチベットに仏教をもたらしたと伝えられていますが、空を飛んでチベットにやってきて土着の神々を調伏したなど、その生涯には数多くの伝説が残されています。
壁画に描かれているのは、17世紀頃のラダック王家の導師、タクツァン・レーパ。ヘミス・ゴンパは、ラダック王国が全盛期だった当時の王、センゲ・ナムギャルがタクツァン・レーパのために建立した僧院なのだそうです。