暦の上では処暑を過ぎたが、まだまだ真夏のような暑い日が続いている。しかし、夜の時間がどんどん長くなっていることを日々体感していると、着実に季節が移り変わっていることに気付くのだ。
ところで、「夏といえばオリオン座」などと言うと、ちょっと奇異に聞こえるだろうか? でも、この感覚を理解してくれる星好きは少なくないと思う。
世間一般には、オリオン座は“冬の星座”として知られているし、俳句の世界では、オリオンは“冬の季語”だ。けれども、大の星好きからすると、その旬の幅の認識は少しばかり異なる。
たとえば真夏の8月、夜明かし(あるいは早起き)をすると、いち早くオリオン座に出会える。
オリオン座といえば、北風の吹く寒空の下で見上げるというのが風物詩だが、夏場に見るこの星座もなかなか趣があるものだ。
真夏の夜は、天の川の流れを愛でながら、夏の星座を見送り、秋の星座を堪能し、冬の星座を迎える。そうして一晩の星空散歩を楽しんだ夜明け前、いよいよこの星座と対面する時間は格別だ。
僕は毎年、明け方の東空に昇ってきたオリオン座を見つけると夏を感じる。そして、ひと時の清涼を味わうのだ。それはきっと、オリオン座が冬を代表する星座であり、寒空を想起させるからだと思うのだがどうだろう? もちろん、ここが標高の高い場所で、そもそも気温が低いということを抜きにしてだ。
僕にとって、夏場にオリオン座を見るということは、一種の避暑なのかもしれない。
冬場の主役であったオリオン座は、春の訪れとともに西空に移動し、見ることのできる時間がどんどん減ってゆく。初夏になるとしばしのお別れとなるが、立秋頃にもなれば、明け方の東空に再びその姿を現している。
毎夏、オリオン座に再会すると、思わず「お久しぶり!」と声を掛けたくなる。
昇ってきたオリオン座は、やがて白み始めた空へと紛れ、星たちの輝きは明日の夜へと消えてゆく。
星景写真家・武井伸吾
「星と人とのつながり」をテーマに、星景写真(星空のある風景写真)を撮影。著書に写真集『星空を見上げて』(ピエ・ブックス)など。
http://takeishingo.com/
武井さんの以前のお話はこちら。
桜と星空鑑賞のススメ。~夜桜礼賛~
満天の星の下、お気に入りの樹々と過ごす時間。
星降る夜に、カメラを構えながら思うこと。
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空からラッキーが降ってくる。~流れ星の話~