世界で一番背が高い人が暮らすオランダ
男性の平均身長約183cm、女性は約170cmとノッポな人達が暮らすオランダ。そんな彼らが長年暮らして来た伝統的な家といえば、縦長の建物が典型的です。
しかし、レンガ作りで天井も比較的高い伝統的な家とは、全く違い、むしろ「窮屈じゃないですか?」と心配してしまうようなタイニーハウス、Tiny(とても小さな) house (家)が今、オランダで注目されています。
そもそもタイニーハウスとは?
1990年後半にアメリカで提唱され、一般的には大きさは約30㎡以内で移動可能のものを指します。値段は200万円から1000万円程度だといわれています。
2008年のリーマンショックをきっかけに「シンプルな暮らし」が注目され、タイニーハウスのムーブメントは世界中に広がりました。
オランダでのタイニーハウスムーブメント
「私たちが暮らすタイニーハウスのコミュニティーでは毎月1回見学会を開いて、みんなが自由に敷地内を歩いたり、一緒にコーヒーを飲んでお喋りをする機会を作っているんだけれど、毎回、オランダ各地からたくさんの人が訪れてくるわ」と、2019年の夏からタイニーハウスに暮らすシャニーネさんは言います。
彼女が所属するコミュニティーは、オランダのハーグより16キロ北に位置するカトワイク(南ホランド州) の自治体が 空き地の有効利用のために、2028年までという利用期限付きで地面に固定されていない移動可能のタイニーハウスを設置していいという条件で作られたものです。
2018年に発表されたこのプロジェクトについて知ったシャニーネさんは、昔から自分の作った家に暮らしたいという夢を叶えたく、コミュニテイーの参加するために応募。面接を通じて、環境への配慮などといった意識や価値観についても確認され、見事選抜されました。
最初は息子さんがどう思うか心配されたそうですが、週の半分は彼女と暮らし、他の日は近所に暮らす離婚した元の旦那さんと生活している息子さんは、今では秘密小屋に暮らせるような感覚をとても楽しんでいるそうです。
どうやって建てたのか
インターナショナルスクールで美術を教えるシャニーネさん、当初は建築の経験はゼロでした。しかし、タイニーハウスにまつわるYouTubeをたくさん見て研究し、お父さんや友人達の協力を得たことでソーラーパネル付きのオフグリッドのタイニーハウスを完成することができたと言います。
道具はお父さんがすでに持っていたものを使い、建材は近所の建設現場を周り、古いパレット材を集め、業者さんからリサイクル木材を入手するなどし、総建設費用を25,000ユーロ、つまり日本円にして320万円前後(2021年11月18日現在のレート)に抑えることができたと言います。
ちなみに、出費の大半はトレイラー、ソーラーパネル、そしてロケットストーブにかかったそうです。
すでにある持ち物を改造して再利用
愛着があるものでも、使わなくなった途端に捨ててしまうとそれでその物との縁は途切れてしまい残念な気持ちになるのが通例ですが、シャニーネさんの場合は、それらを違う用途に改造して第二の人生を与えることによって、地球にもお財布にも、そしてハートにとっても「三方良し」を実現しました。
タイニーハウスに暮らして特に良かった点
「地球にできるだけ負荷がかからない、簡素な生活を送れている事に喜びを感じてます。また、家の中が小さければ小さいほど、外の世界が広がった感じがしています。家周りのことをメンテナンスするのに、前より天気を気にし、野外で過ごす時間が増えたので、自然との触れ合いが増え、スローなライフスタイルが実現できていて幸せです」とシャニーネさんは言います。
金銭面もポイント
一般住宅に暮らしていた時より、生活維持費がかからない分、収入も以前より必要ではなくなったり、週に3回の勤務で済むので、自由にできる時間が増えたのも嬉しい点だとシャニーネさんはいいます。
「また、私の場合、オランダの高騰している住宅市場から逃げると言うのも一つの大きな理由でした」
オランダのRabo銀行の専門家によると、2022年末までに住宅価格は28%上昇することを見込んでいるそうです。これは、金額にして差額がなんと9万ユーロ(日本円にして1160万円前後!)にもなるので、そういった住宅市場環境からしても、特に若い人たちの中には、タイニーハウスは希望の光のような選択肢に見えるのでしょう。
こんまりメソッドの人気も追い風
2015年に米TIME誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」に選ばれ、2019年には動画配信サービス「Netflix」を通じてより世界でも広く知られている片付けコンサルタント、近藤麻理恵さんの「こんまりメソッド」も、オランダの人々の間で広く知られています。そうしたトキメクものにだけ囲まれたライフスタイルの流れも、このムーブメントを支えていると十分考えられます。
「I know KonMari!」というシャニーネさんは、まさにこんまりさんの哲学を見事に体現されていました。
「タイニーハウスに暮らすこと=ミニマリストだと勘違いする人が沢山いるけれど、私の場合は、それは当てはまらない」と言います。
「私の家にあるものは、思い出の品か、見かけが完璧に美しいものか、最高に実用的かのどれかの区分に入るの。私は家に置くか置かないか決めるのに、選抜するという時間をかける事によって私は、本当に特別なものだけに囲まれている事になるので、それらの物は自ずと家の中の雰囲気を高めてくれるものばかりで、私の家が「私」そのものを表現してくれるこそ、とても心地よいの」と言います。
タイニーハウスに暮らしていて不便なことは?
狭いので、あまり人を家に呼べないということと、アトリエのスペースがないことだそうです。
そう言いながらも彼女は花が咲き誇るガーデンで青空の下、大きなキャンバスに絵を描き、笑顔で創作活動をする彼女の満面の笑顔は、とっても充実し、そんな不便な生活をも丸ごと愛していて、誇りに溢れていて眩しかったです。
オランダ在住。写真家・星野道夫氏に憧れ、20歳の時に単独でアラスカでキャンプして以来、カメラマンになる事を決意。12年間ほど外国通信社で報道カメラマンとして様々な現場を経験し、2002年よりフリーとなる。アウトドアや旅が好きで訪れた国は50か国以上。他の趣味はヨガ、瞑想、ビーガンスイーツ作り、読書など。ミッションは、写真とコーチングを通して、Sense of Wonder(神秘さや不思議さに目をみはる感性)を磨き、私たちが野生を取り戻し、自然とのつながりを深めることを通じて健康で、幸せで調和が取れた世界を創造すること。#facebook.com/yuriko.nakao.7 Instagram:@yurikobee