ラオスのソウル調味料“パデーク”を琵琶湖の湖魚(こぎょ)で作る
みなさん、“パデーク”と言うモノをご存知だろうか? 遥か南のラオス国民のソウル調味料である。様々な淡水魚を合わせて作る魚醤だ。
そんなパデークを琵琶湖の湖魚で作っている人がいる。「小松亭タマサート」の屋号で滋賀や京都のイベントでラオス料理を作って販売出店している小松聖児さんだ。
「パデークは、淡水魚ならサイズや種類を選ばないんですよ。しかも、いろんな種類の魚を混ぜて作るんです。だから、琵琶湖の魚で売れずに未利用魚になって捨てられてしまう魚たちも、無駄なく加工するコトができるんです」と、小松さん。
琵琶湖には約80種類の魚類が生存している。鮒やビワマス 、鮎といった人気のある魚たちは出荷されるものの、エリ漁で捕まえた時に一緒にかかる雑魚も多い。それらは、漁師以外にはあまり知られるコトはなく、漁師仲間内で食べられるか、未利用魚として破棄される場合も。淡水魚は足がはやいというのも難点のひとつだ。
また、人気のある魚たちでも、規定サイズ外は流通ルートに乗らない。小松さんは、そんな湖魚たちをまとめてパデークにする試みをしている。その手作りパデークを使って、彼が作り出す数々のラオス料理は、異国の未知の味ながらも、淡水魚はこんなにもレシピが幅広かったのかと新たな可能性をとことん見せてくれる。
琵琶湖の湖魚で作るラオス料理
昨年の冬。滋賀県は琵琶湖に浮かぶ有人離島・沖島の漁師が獲った湖魚を使い、小松さんがラオス料理を作るイベントがオンラインで開催された。
オンラインといえども、画面で眺めるだけではなく、なんと、自宅に調理済みのラオス料理3品が冷凍で届き、指示通りに解凍し、食べながら琵琶湖の湖魚や漁、ラオス料理についてわいわい語り合うというイベントだった。
家にやって来た3品は初めて見聞きするメニューばかり。
“モックパー”は、魚の蒸し料理のコト。湖魚であるカマツカとニゴイが使われている。カマツカはコイ科だが、キスのような見た目。一般への販売はあまりされていない。漁師内で食べられているコトが多い。
それらをパクシーと一緒に葉に包んで蒸す。パクシーとは西洋ハーブでいうディルのコト(隣国タイでは、パクチーラオと呼ばれている)。また、本来はバナナの葉で包むのだが、冬季で手に入らず、笹の葉で代用したので、小松さんいわく「笹の香りで、ちょっと和風な感じになった」と。
“コイパー”は、魚のミントサラダ。これまた、湖魚の二ゴロブナとギンブナが使われている。鮒は脂がのっている冬時期が一番おいしい。細かく切った寒鮒をパデークで味付けし、ミントと和え、仕上げに炒りもち米粉をかける。ミントでさわやかな味のところに、深炒りしたもち米粉の香ばしさがアクセントになって美味しい。
“オラーム”は、魚料理ではなく肉とハーブの煮込み料理。この時は、鹿肉と鹿レバーを使い、ディルやニンニクで味付けされていた。酒の肴に最高の1品だ。本当は沖島で獲れたイノシシ肉を使いたかったそうだが、この時は小松さんが自ら解体した和歌山県産の鹿肉が使用されていた。
初めて口にするのに、どことなく懐かしさを覚えるその味に、私はこれ以後、すっかりラオス料理の虜になってしまった。マルシェやイベント等で小松さんのラオス料理を食べた人たちも、虜になる人が続々と現れている。
しかし、小松さんはこう語る。
「一見、ラオス料理を広めているようで、実は、琵琶湖の湖魚をはじめとした淡水魚を広めたいんです。淡水魚を美味しく食べるコトで淡水魚に興味を持ってもらって、漁師さんの問題も知ってもらえたら」と。
琵琶湖の漁師の担い手不足の問題はよく取り上げられる。が、それに関わる、淡水で使用される漁師網や漁船の作り手がいなくなっているコトはあまり知られていない。海の漁具と淡水の漁具はまた違うモノであり、海のモノを代わりに使うコトはできない。また、漁師が減ると漁具を使う人も減る。
すると、漁具を作っている人達も高齢化や採算が合わずにどんどん辞めていく。造船所も、昔は琵琶湖沿いにいくつかあったが、現在は三重県まで行かないとない。船を修理に出す際、運賃もバカにならない上に、修理に出している1か月間ほど仕事ができず無収入になる場合もあるという。もはや、生活自体が危うい状況だ。
ただ単に問題を訴えるだけでは、世の中の人が自分事として受け止めるコトは難しい。が、自分が好きな店の美味しい料理となれば、全員とまで行かずとも、興味を持ち始める人は増えはじめる。
ラオスに学ぶ、自然と地続きの生活
京都市生まれ育ちの小松さん。幼い頃から、琵琶湖で釣りをするのが好きだった。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科在学中には、淡水魚の流通の研究でラオスに3年ほど留学した経験をもつ。
「ラオスの人は田んぼに農薬は使わないんです。田んぼには貴重なタンパク源となる虫や魚がいるから。自分たちの貴重な食糧が減るようなコトはしないんですよ。ラオスは1周遅れで時代の最先端にいるとも言われています」。
世界がどんどん最新技術やなんやらと手を出し、自然が壊れてしまって初めて自然の大切さに気が付き、その壊れた自然を直そうとしている現在に至るまで、ラオスは淡々と持続可能な生活をずっと続けていたのだ。そして、今もそれは続いている。が、都市部から急速に失われはじめているのも事実だ。ラオス料理を通してラオスの生活を知るコトで、日本が学ぶコトはいくつもある気がする。
「屋号である“小松亭タマサート”の“タマサート”はラオスの言葉で“自然”とか“あるがまま”という意味なんです。自然がなくなってしまったら、人間も生きていくコトができません。そんなコトも伝えたくて」。
経済成長と共に、自然と生活がどんどんと離れてしまった日本。規模が大きすぎて、個人だと、果たして何から手をつけて良いのやら……。
けれど、まずは、自分の楽しみから入ってみるのもいいかもしれない。小松さんの美味しいラオス料理を頬張りつつ、小松さんに湖魚のコト、沖島や琵琶湖の漁師のコト、はたまたラオスのコトを聞いてみるのもいい。
ちなみに、小松さんの本職は、京都市中央卸売市場水産荷受会社の営業マン。魚の知識は淡水魚に留まらず幅広い。
「小松亭タマサート」が出店している「HOURAIマルシェ」(滋賀県大津市)は琵琶湖まで徒歩1分。そして、その湖岸からは琵琶湖の漁“エリ漁”が見える。
そのエリ漁で獲った魚の中の未利用魚を、小松さんは漁師から購入し、ラオス料理として提供している。そこには、自然と食と生活のつながりがしっかりと見える。
毎回1品、季節ごとに様々な湖魚を使ったラオス料理を販売している。毎回メニューが変わるので、1度と言わず何度でも訪れてみてほしい。
他にも「くさつFarmers’ Market」(滋賀県草津市)や、その他、様々なイベントにも出店している。
湖魚を含む淡水魚を少しでもあなたの日常に。そして、その魚たちが生きている場所が自分の日常と地続きであるコトを未知の国のラオス料理から知るコトも、持続可能な生活の一歩になるのではないだろうか?
●小松亭タマサート
Twitter @BiwakoLaos
Instagram @komatsu_tei._thammasart
●HOURAI マルシェ
場所:蓬莱の家
住所:滋賀県大津市南船路271-1
アクセス:JR湖西線「蓬莱」駅下車 徒歩約3分
毎月第1日曜日開催(9:00~13:00)
※夏はナイトマーケットになる場合もあり
Instagram @hourai.marche
●くさつFarmers’ Market
場所:草津川跡地公園de愛ひろば
住所: 滋賀県草津市大路2-4−11
アクセス:JR草津駅下車 徒歩約7分
毎月第2&第4日曜日開催(10:00~13:00)
※開催時間は季節により変動あり。夏はナイトマーケットになるコトも。
https://kst-farmersmarket.amebaownd.com/
●フリー冊子『沖島さんぽ』
滋賀県は琵琶湖に浮かぶ有人離島・沖島のガイド兼コミックエッセイ。
沖島が気になる方は、ぜひ、下記に連絡してお取り寄せしてみてください。
(冊子は無料ですが、郵送料は注文者さん側のご負担になります。)
沖島町離島振興推進協議会
montekite.com/inquiries/
もしくは
沖島町離島振興推進協議会のInstagram 「もんて @montekite2017」 へメッセージで連絡