8000m峰14座登頂者・竹内洋岳さんが語る「人類の進化の可能性」
探検家・関野吉晴さんが、時代に風穴を開けるような「現代の冒険者たち」に会いに行き、徹底的に話を訊き、現代における冒険の存在意義を問い直す──BE-PAL2月号掲載の連載第7回目は、日本人で唯一8000m峰を全座登頂した竹内洋岳さんです。
「わたしは人類の高いところ担当の進化の実験をしている」――竹内さんが“おもしろい“と感じている高所登山の魅力に関野さんが迫ります。その対談の一部をご紹介します。
関野吉晴/せきの・よしはる
1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人びとのルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。
竹内洋岳/たけうち・ひろたか
プロ登山家(ハニーコミュニケーションズ所属)、立正大学客員教授。1971年東京都生まれ。日本人初、世界29人目の8000m峰14座全山登頂者。2013年、植村直己冒険賞受賞。著書に『下山の哲学──登るために下る』(太郎次郎社エディタス)などがある。
宇宙の中にいるような8000mの星空
関野 高所登山の魅力はどこにあるのでしょうか? 8000mを超えると景色が違いますか?
竹内 空の色が違いますね。とくに印象的なのは星が瞬かなくなること。星が瞬いて見えるのは大気中の水蒸気によるのですが、8000mまで行くと空気が薄く、かつ低温なので、水蒸気がなくなってしまうんです。見える星の数も多く、空全体が発光しているようで、深夜に頂上にプッシュするときには、まるで宇宙に自分が漂っているような不思議な感覚になります。でも、8000m峰の頂上でゆっくり景色を堪能したことはほとんどありません。頂上はベースキャンプから一番離れた一番危険なところ。しかも一番酸素が薄いところです。だから、一刻でも早く帰りたい、標高を1㎝でも下げたいと思うばかりです。
関野 アフリカで誕生した人類は、砂漠や極北などさまざまな過酷な環境に適応しながら拡散しました。標高に関しても、チベットやアンデスなどでは5000mぐらいまで適応していますが、8000mは生きていける環境ではありません。
竹内 8000m峰の頂上には生命はいっさい存在しません。自分という生き物がそこにいることが、あまりにも不自然に思えます。そんな本来生き物が生きていけない低酸素の環境に自分が一歩一歩立ち入っていく行為は、自分の可能性だけではなく、人類の進化の可能性をも試しているように感じます。わたしにとって、それが高所登山の最大の魅力です。人間が8000mという酸素も気圧も3分の1しかない山に登れるのは、地球上に酸素が薄かった時代を生き延びた生命の能力が、人間の中に潜在能力として取っておかれたからかもしれません。高所登山はその潜在能力を目覚めさせるもので、地球が再び低酸素になってしまうときのために、わたしが人類の高所担当の進化の実験をしている――そう考えるとワクワクします。
この続きは、発売中のBE-PAL2月号に掲載!
公式YouTubeで対談の一部を配信中!
以下の動画で、誌面に掲載しきれなかったこぼれ話をお楽しみください。