妻は、祖父に「野菜がおいしく、大きく育つのが旬であって、その時はたくさんの栄養を蓄えている。だから、旬の食材は人の体も健康にする」と教えられ、それを料理に実践してくれている。私も祖父母が専業農家だった為、幼少の時から野菜に溢れた生活で意識せずとも旬を食べてきた。
さて、この本であるが、作者は幼少期に禅寺で修行した際に、精進料理の技術を身につけた。作家となり、軽井沢の山荘で1年を通じて、その月々の旬の食材とそれを使った精進料理を自分の修行時代の経験をもとに紹介している。刊行が昭和57年であるから40年近く前の本となる。
私は料理が趣味で、いつもは写真を多用した料理本ばかり図書館で借りていたのだが、この本が、料理関係の本棚に忘れ去られたように小さく並んでいるのが目にとまり、作者・水上勉の名を、高校時代の国語の教科書に見た記憶が、この本を手にしたきっかけとなった(気に入って、後に購入した)。
まず、読んで感じるのは、作者の食材に対する愛情であり、料理の記述が、何とも美味そうなのだ。文章だけでこれほど、食材や料理の存在を引き立てる事ができるのかと感服する。山仕事をしていた作者の父が、たらの芽を焚火で焼いた昼飯を紹介すると、
「山へ入って、旨そうなものを千切って、ぬれ紙につつんで、よく焼いて、携行してきた味噌につけて飯の上においているのだった。ほこほこと湯気の立つのをみていたら、生唾が出た。」
下手な写真を載せるより、読み手側の想像も膨らみ、料理の風味や温度までもが分かる気がする。
精進料理ではあるが、手早くできるものから、手の込んだ繊細なものも紹介されている。旬の食材を、美味しく、無駄なく料理するレシピが本当に素晴らしい。舞台は軽井沢であり、私の住む熊本とは気候・風土は大きく異なるが、それでも春夏秋冬でとれる野菜、山菜、には共通するものも多くあり、大変参考になった。
文中にはアウトドアの要素も沢山含まれている。春の山菜どりや秋のキノコ狩りなど、自然から獲得できる食材やその料理方法も多彩だ。修行僧時代の松茸狩りとその料理法が、未だ口にした事のない私には特にそそられた。炭火で炙ってただ柚子を絞るだけだが、これほどシンプルに食材を味わう方法はないだろう。
軽井沢は高原野菜の本場でもあり、作者は山荘で菜園を作り野菜を育てている。これも立派なアウトドアではないか。さらにキャンプのノウハウも盛りだくさんだ。山で焚火をし、採った山菜を銀紙に包んで焼いたり、串に刺して焼いたりと、昨今のバーベキューで皆がやっている事だ。冬は寒さが厳しく、囲炉裏の煙で食材を燻す事や、軒先につるして保存食を作る記述もあったりする。
まさか、40年も昔の精進料理の小説に、この様にアウトドア要素が満載されているとは思いもよらかなかった。この本こそ、私のアウトドア料理のバイブルになっているといっても過言ではない。
精進料理そのものには余り興味はないのだが、その時々の旬の食材に何があってどのように料理して食べるのか?には非常に興味がある。それを読むにはこの一冊で済むのだ。
50歳を目前に控えた今、年齢を重ねる度に感じるのは旬の物を食べる事の大切さである。旬を身体に取り入れれば、季節を感じ取る事が出来、次の季節への身体の準備ができると思うのだ。このルーティンを続ける事で、身体的にも精神的にも健康が得られるのではないか?冒頭で書いた、妻の祖父の言葉に通じるものがあるし、最後に作者も精進料理をそのように解いている。
私はこれからも、間違いなく旬を食べ続け、長生きするのである!
最後に、私と小中高の3息子の為に、毎日旬の食材を吟味して、食事を作ってくれる妻に感謝する。
※こちらの記事は過去の読者投稿によるものです。
きよぴーさん
忌野清志郎の熱烈ファン。剣道愛好家のジャスフィフ親父です!
登山、渓流釣り、ロードバイク(トライアスリートでした!)に没頭したのはかれこれ20年前。以来、おうちより外が好きになりました。
最近は、購入したり、自作したアウトドアグッズを、庭で使う事で欲求を満たしてます!