「ゴールドウイン」では、アウトドア用品を扱うアパレル企業として、環境に配慮したものづくりを行なう上で新たなプロジェクトをスタートしました。それが「Goldwin 0」。この名前に込められた思いとともに、環境に配慮した次世代のたんぱく質素材で作られた新製品がお披露目されました。
地球で循環するための新プロジェクト「Goldwin 0」
カテゴリーやレーベル、国境を越えて存在する、メンズとウィメンズの機能的な衣服で構成されている「Goldwin 0」は、実験的でテクニカルなプラットフォームです。カプセルコレクションやコラボだけでなく、自然、科学、技術に根ざした最高の品質と時代を超えた美しさを追求するプロジェクト。このプロジェクトを構成する大きな要素の一つがサステナビリティです。羊への負担を減らしたノンミュールジングウ―ル、リサイクルナイロンやリサイクルポリエステル、海洋リサイクルわたなど、環境に配慮した素材がセレクトされています。なかでも注目は、Spiber社の「ブリュード・プロテイン」素材を使用したデニムやフリースです。環境への負荷を限りなく少なくすることからスタートするこのプロジェクトでは、ゼロウェイストを目指し、すべての製品を日本国内で生産することで、輸出時のCO2排出量を削減するように配慮しています。また、すべての布帛製品は、継続的に使用できるよう富山のリペアセンターでの修理が可能です。限りなく循環するものづくりを、私たちの地球と同じ円環をあらわす「0」で表現し、「Goldwin 0」と名づけられました。
「人間は、環境への負荷が最も多い動物です。植物のように地球上での循環をあらわすアクションとして、Goldwin 0をスタートしました」と、ゴールドウイン代表取締役社長の渡辺貴生さん。
人間の作り出すものは自然分解されないものが多く、地球の循環に組み込むものづくりが重要だとも。そこで、Circulation・Borderless・Co-Creationの3つのキーワードのもと、作る責任として、あらかじめ分解されることを考え設計したアイテムを展開します。地球を遊ぶように、よりよい未来を作ることをミッションと考え、「PLAY EARTH」をコンセプトに掲げています。なかでも、注目を集めているのが脱炭素、脱プラに貢献する新たなたんぱく質素材「ブリュード・プロテイン」です。発表会ではデニムとフリース、シェルジャケットがお披露目されました。
新素材の「ブリュード・プロテイン」とは
Goldwin 0のコレクションでも使用されている「ブリュード・プロテイン」とは、植物由来の糖類をエネルギーにする微生物によって作られるたんぱく質素材です。このブリュード・プロテイン繊維は、数十年から数百年にわたって環境中に蓄積される化学繊維から排出されるマイクロプラスチックと比べ、分解が早く、ほかにも動物倫理に関する懸念がない素材でもあります。この素材を開発したのは、山形県にあるSpiber株式会社。人工的にたんぱく質を作るとは、どういうことなのだろうと思っていましたが、Spiber取締役兼代表執行役の関山和秀さんが、丁寧に説明してくれました。
「たんぱく質って、とてもおもしろい素材なんです。アミノ酸20種類の並び方が変わるだけで、いろいろなものに変化します。お肉や体、シルクやカシミヤ、髪や皮膚、免疫の抗体もたんぱく質なんです」(関山さん)
身近なものがたんぱく質でできていること、たんぱく質は、自然界で循環していることなどを、わかりやすく説明してくれました。渡辺社長が出会ったときも、まるで少年のように目を輝かせ、とてもわかりやすく説明してくれたことから、共同開発をスタートすることになったそう。たんぱく質は、さまざまなプラットフォームでできていることから、工場のように必要なときに必要なものだけを作っているとのこと。その過程で変異が起こることで、生物は進化し自然淘汰されています。ただ、その進化は一部なのだそう。
「生物は、たんぱく質を獲得したことで進化できました。生物としては使いこなしていますが、産業としては、使いこなせていません。たんぱく質は、地球の循環の中にある素材なので使いこなしたいと考え、研究開発しています。」と関山さん。
実は人工構造たんぱく質については、世界中で研究が進んでいます。ただ、商業化するというフェーズでは、Spiberが一歩も二歩も進んでいるそう。頼もしいですね。
そんなたんぱく質を、微生物の力を使って作り出したものが、ブリュード・プロテイン素材です。ブリュード(醸成)と名づけられたままの工程なのですね。微生物により発酵生産され、精製されたたんぱく質は、その後、紡糸工程を経て、糸や生地へと加工されます。たんぱく質素材のため、分解することで、またアミノ酸に戻り、将来的にはブリュード・プロテイン素材の原材料として再利用が可能です。今回発表されたGoldwin 0では、デニム、フリース、シェルジャケットに採用されています。
Spiberとゴールドウインが協業し、2015年に初めて発表した試作品の第一号であるアウトドアジャケット「MOON PARKA」は、想像以上に早くできたそうですが、ただ一つの弱点が。それが、水に触れると縮んでしまうという特徴。ゴールドウインが取り扱うのは、アウトドアやスポーツウェア。ということは、水による縮みは致命傷です。そこで、これを解決するため、加工方法や生産方法を見直すなど試行錯誤したそうですが、なかなか解決せず結局最初のたんぱく質のプログラム(アミノ酸の配列)を再設計するところからやり直し、約5年の歳月がかかったそうです。
「糸を引く人や、加工する人、なかなかうまくいかないことで、心のどこかにできないんじゃないのと思っても、絶対に言わないようにと口止めしました。口から言葉が出ると、気持ちが変わってしまうからです」(渡辺社長)
開発が、どれほど大変だったかを感じさせる言葉でした。
デニムは一般的なデニムと変わらない触り心地で、フリースは一般的に現在販売されているフリースより、ちょっと毛足が長いニットのようでした。夏服では、コットンなどの天然素材ものもの多くありますが、冬服のウールやカシミヤに代わるものはないかと開発したそう。
まだ、ライフサイクルアセスメントの第三者によるレビュー中ですが、カシミヤ繊維と比べて、水の量は数分の一、温室効果ガスの排出量も数分の一くらいになる想定とのこと。さらに、将来的には洋服としての寿命を全うした後は、分解してアミノ酸に戻し、ブリュード・プロテイン素材の原材料として、新たな命が吹き込まれ循環していきます。
「ピースはそろったので、あとはやるだけです。未来の子どもたちが、『昔は、服とか捨ててたらしいよ。ありえないよね。』というような世界にしていきたいです」(関山さん)
未来の大人に向けて、今、私たちができることは、環境に配慮したものづくりをしている企業のアイテムを購入し、そのモノの命をしっかり全うするまで使い、最後はリサイクルに出すなど、循環を考えたライフスタイルを送ることだと改めて感じました。
Goldwin(ゴールドウイン)
https://www.goldwin.co.jp/