忙しくて乗れない!サイクル・ライフ・バランスの難しさ
ロードバイクを手に入れて約1年。週末はなるべく峠に向かっていたが、今年の2月、3月は仕事が忙しくて全然自転車に乗れていなかった。2月はちょろっと湘南平(神奈川県平塚市)や湘南国際村(神奈川県横須賀市~三浦郡葉山町)に上ってみたり、3月は1回だけヤビツ峠(神奈川県秦野市)に上ったりした程度だった。
昨年の秋ごろまでは月間の走行距離が必ず500kmを超えていた筆者であったが、忙しさと寒さにかまけて全然自転車に乗れない日々が続いていた。
モチベーション維持という名の物欲
ロードバイクの恐ろしいところは、乗ってもつらいのだけど、乗れていないと良からぬ思いがムズムズと湧き上がってくることだ。筆者は仕事の忙しさのストレスからか、この3月に機材のコンポーネント(自転車の駆動系部品やブレーキ部品の総称。通称「コンポ」)周りを一新することを決心していた。
筆者の愛機「GIANT tcr advanced2 disc SE」にはシマノの『105』という機械式のシフトがついたコンポが搭載されているのだが、昨年9月にリニューアルされた電動シフト採用の同じくシマノの『アルテグラ』にアップグレードを図った。
筆者は自転車に乗っている時間だけでなく、メンテナンスなどでいじっている時間も至福に感じる完全にラリった状態なので、DIYで行なうことにした。交換自体は機械いじりをしたことである人であれば、細かい注意点さえ守ればそんなに難しくなくできるだろう。ただ、機械ものが苦手な人については、ショップのプロにお預けした方が安全・安心なのは間違いない。
コンポのアップデートを終え、試走がてら足柄峠へ
今回ご紹介する『足柄峠』は神奈川県南足柄氏~静岡県駿東郡小山町に位置し、かつてはここより東を「坂東」と呼んでいたらしい。『鎌倉殿の13人』(NHK大河ドラマ)を見ていても「坂東武者」という言葉がよく出てくるが、古くから交通の要衝として有名な峠のようだ。
筆者の自宅のある横浜市の西側からだと、国道246号線を西に向かって走り、新籠場という信号から県道72号線に降り(というより、新籠場の先は自動車専用となるので間違えないようにしたい)、その後、県道712号線を開成方面へ左折し4kmほど行くと「切通し」という交差点にぶつかるので、そこを左折。
しばらく進むと南足柄郵便局という大きな郵便局があるので、その先を右折すれば、足柄峠まで続く県道78号線に入ることができる。なお、この近くには伊豆箱根鉄道大雄山線の「大雄山駅」があり、輪行派の方は情緒のあるこの鉄道に揺られてくるのも妙案だろう。
ここまで筆者はコンポ周りの換装についてはほぼ上手くいっていることを確信しながら走っていたのだが、疲労の蓄積が早いというか、なかなかスムーズに自転車に乗れていないことに違和感を覚えていた。しかしながら、前述のとおり仕事の忙しさにかまけていた体力不足だろうとタカを括り、ここまで50kmほど走っているのだが、この程度でおかしくなるはずなんてない!という妙な自信から、大した休みも取らずにヒルクライムをスタートした(皆様の予想通り、この後、地獄を見ることになります)。
住宅街からの先にある直登系の坂道
さて、この足柄峠、筆者は過去に何度か上ったことがある。初めて上った際にはあまりにもきつく、途中のバス停で30分ほど休憩をとった苦い思い出がある。その後、パワーメーターを駆使した貧脚ペース配分を覚えてからは、足つきナシの完登を何度もしているので、無理に急がずゆっくり登れば問題ないと思うようになった。
足柄峠のスタートは「南足柄郵便局入口」の交差点、角にある「本多ふとん店」という布団屋さんが目印だ。スタートからしばらくは、5%程度の勾配がせいぜいの住宅街を進んでいく。ここは、クルマの通りや人の気配もそこそこあるので、安全に走りたい。しばらく走ると、どんどんのどかな雰囲気に変化するとともに、勾配も少しずつ上がってくる。
その後、一瞬平坦~下りが現れるが、そこからはほとんど勾配が0以下になることはないので、しっかり体力回復をしておきたい。そして、矢倉沢のバス停というちょっと広がった場所があるのだが、その先にはこの後の地獄を体現するような直登の坂道が見える。写真で見るとそうでもないのだが、実際に見るとなかなかのインパクト。ここで、手元のサイクルコンピューターの勾配計は10%を超えてくる。
この矢倉沢付近を過ぎると昨年開通した「はこね金太郎ライン」の入口が現れる。この区間については、緩急がついた坂が連続し、スピードが上がったり、下がったりしながら、だんだんと山間部に入ってきたことを感じることができる。この辺りは地蔵堂というエリアで、感覚的には足柄峠前半戦の最後といえる。
厳しい、厳しいワインディング区間の後半戦
地蔵堂を過ぎると、しばらく直線的な10%弱の登りが続く。ここからが足柄峠の本領発揮する区間なのだが、どうにもこうにも筆者の調子は上がらない。上がらないどころか、まったくペダルに力がかからない。ひいひい言いながもちょっと冷静に自分の様子を観察すると、どうやらサドルのポジションがいつもより低い気がするのだ。
コンポを換装した際に不用意に抜いたシートポストの高さをきっちり元通りにできず、ビミョーに低い位置でセットしてしまったことに今さらながら気がついた。通常シートポストを抜くときは、元のポジションをマスキングテープなどで印をつけるのだが、新コンポをゲットした嬉しさに舞い上がっていた筆者はそれを忘れ、以前に測った高さに合わせて適当にやってしまったのだ!往路の違和感も絶対にこれが原因だ!
そうは思ってもすでにヒルクライムをスタートしているのだから、途中で足をついてシートの高さを変えるなんて絶対にやりたくない。何とか意地でも登ってやる、と決心をし、この先続く険しい険しいワインディング区間にそのまま入っていった。
このワインディング区間については、ほかの峠と同じように、コーナーの内側はかなりきつい勾配となる。場所によっては20%近くあるのではないだろうか?そんな時は得意の貧脚テクニックである「大回り」をして勾配をいなすのだが、この日は運の悪いことに左コーナーに限って後ろからモーターサイクルがやってくる。迷惑になりたくないのでキープレフトになるのだが、そうすると急勾配でダンシング(立ちこぎ)を強いられることになり、一気に太ももに乳酸が溜まってくる。
いくつかのヘアピンをこのように超えていったのだが、4月にしては高い気温(この日は最高気温が25度Cくらいあった)でもあり、目の前がチカチカしてきた……。手元のサイコンのスピードメーターは5km/hを切ってしまうこともあり、もうどうにもこうにも限界を迎えていたように思う。
「ここで足つきをしたら後悔するぞ」という自分と、「いや、一度休んでシートポストの高さを直した方が安全だ!」というもうひとりの自分が戦っている。そうこうしているうちに目のチカチカがどんどん激しくなってきたので、「これはもう限界」と思い路肩に退避して足をついた。しばし休憩をし、自分の未熟さ(体力も整備の腕も)を痛感しながら補給のジェルを飲みつつ、サドルの高さを調整した。
約3mm程度サドル位置を上げたのだが、この後、再スタートをしたところ“いつも通り”の感覚で走ることができるようになった。ロードバイク乗りは数mm単位でサドル高を調整するのだが、この重要さを身をもって知ることができたので、これも新たな収穫とすることにしよう。
見晴台のバス停を過ぎれば最後の地獄!
その後、見晴台というどこの峠にもありそうな東屋があるバス停辺りまで来ると、勾配はますますきつくなっていく。まさに地獄。この辺りで自転車を押して歩いているサイクリストを何度も目撃したことがあるが、その気持ちよく分かります。
最後の最後に14%を示す勾配のあるヘアピンコーナーを過ぎると「足柄万葉公園」が現れる。が、ここでゴールではなく、少しだけ下り静岡県の標識を超えた先に「あづまはや」と書かれた峠の標識が見え、そのあと少し上ったところにある「足柄城址」の石垣がゴールである。
いやいや、本当にきつかった。初めてこの峠に挑んだ時も同じような感想を持ったが、ちょっと慢心していた。少し長めに休憩をしたいと思い、重い足取りで自転車を担ぎ足柄城址の石垣の階段を上り、西側が開けた場所まで行くと、とんでもないデカさの富士山を見ることができた。何度かここにも来ているのだが、こんなによく富士山が見えたのは初めてだったので「きつかったけど、ここまで来てよかった~」などと独りごちてしまう。
足柄城址公園は開けた芝生となっていて、ヘルメットと靴を脱いで寝っころがると春の日差しもあり、本当に気持ちがいい。ヒルクライムの激しい疲れからなのか?仕事の忙しさのためなのか?筆者はここで深―い眠りに落ちてしまったのであった。
足柄峠
【ヒルクライムのレベル】
後半になればなるほどきつくなる蟻地獄。しかし、上った後に天気が良ければ最高のご褒美にありつける。
【峠スペック】
距離:11.8km
平均斜度:5.7%
標高差:674m
最大標高::727m
【走行ルート】
横浜市の西側の自宅-神奈川県道22号横浜伊勢原線-国道246号線-神奈川県道72号線-神奈川県道712号線-神奈川県道78号御殿場大井線-足柄峠-大雄山駅-国府津駅-国道134号線-神奈川県道30号戸塚千ヶ崎線-国道467号線-自宅
【この日の走行距離、所要時間】
走行距離:127.57km
所要時間:9時間2分