動物の死を題材にした異色の漫画が話題を呼んでいる。「泣けるミステリー」との呼び声も高い。作者の浅山わかび先生に話を聞いた。
ラストカルテとは
現在『週刊少年サンデー』に連載中の『ラストカルテ ─法獣医学者 当麻健匠の記憶─ 』は、動物の死因を究明する法獣医学がテーマ。法獣医学は日本ではまだ確定していないこれからの分野でもある。カラス、タヌキ、シマリス、エゾフクロウ……さまざまな動物たちが毎回登場する。物いわぬ動物たちの不可解な死の解明に高校生の当麻健匠と茨戸爽介が奮闘する物語。リアルな動物たちの描写や生態、ミステリーの内幕など引き込まれる要素が満載だ。
笑う面白さではない、感情やリアルさを
──法獣医学を作品のテーマに選んだきっかけは?
個人的に法医学にとても興味があり、小説やドラマなども好きでよく見ていました。あとは両親が獣医だったので、幼少期から動物に触れ合う機会が多かったです。そのふたつの要素の重ね技といいますか。将来は同じく獣医になることを親は期待していたようですが(笑)、自分は漫画を描くのがとても好きだったので、漫画家になりました。
──登場する動物はいつもどのように決めているのですか。
基本的には描きたい動物ですね。好きな動物ばかりを描いているかもしれません。第9話のマガンは季節的なものもありました。マガンは本当に飛び立つ瞬間がすごくて。小学生のときに無数のマガンが飛び立つ瞬間を見たのですが、とても感動的だったんです。あれはいつか描きたいなと思っていました。過去に描いた読み切り漫画にも無意識に動物を登場させたりしていましたね。
──動物との関わりや思い出深い出来事などはありますか。
保護動物の世話をする機会がたびたびありました。キツツキや野ウサギ、カラスなどの野生動物です。回復して元気になれば自然に帰すのですが、傷付いたりして保護された動物なので死んでしまうことも多かったです。一方でアライグマの駆除の手伝いをしたこともありました。殺処分する自分は命を粗末にしちゃダメだなとそのとき強く思いましたね。でも、そういう思いは別に置いて、作品は淡々と描きたいと思っています。そうしたさまざまな死を目の当たりにして、自分も主人公の当麻のように考えて続けていましたね。
──作中にある動物から見た描写やミステリーの内幕などにとても心をつかまれます。
想像することしかできないし、それが本当にそうなのかどうかもわかりません。でも、こうじゃないかと、いつも想像を巡らせて描いています。
──この作品で大事にしていることはなんですか。
やはり漫画なので面白さを重視したいと思っています。ただ、この作品はワハハと笑うような面白さではなくて感情だとかリアルさだと思うんです。それをぶつけるように頑張っています。それが線一本なのか台詞ひとつなのか。伝えたいものを妥協なしで描ければと思っています。
浅山わかび先生
2015年『じいさんライフ』にて「週刊少年サンデー」の月例賞で佳作受賞。ʼ16年『木のヘンタイ』で第78回新人コミック大賞少年部門・佳作受賞。ʼ22年1月から「週刊少年サンデー」で『ラストカルテ ―法獣医学者 当麻健匠の記憶― 』を連載中。
「法獣医学」とは
動物を対象にした法医学(人の死因を究明する医学の一分野)に当たる分野のこと。欧米では学問の1部門として確立されている。
※構成/須藤ナオミ
(BE-PAL 2022年6月号より)