子供たちも外へ出たくてウズウズする夏。でもそこのパパ。外遊びの機会を与えることを家族サービスと思っていませんか? 自分が率先してとことんアウトドアを楽しまないと子供の野性スキルや感性は伸びません。
そこで、アナゴさんこと、ホールアース自然学校・主催系執行役員の浅子智昭さんに取材しました。
子供たちの自然体験はお稽古ごととは違います
僕は富士山麓で長年自然体験のガイドをやってきました。今は親子食育体験の『里山のようちえん』という事業の責任者と、獣肉処理施設『富士山麓ジビエ』の所長を兼任しています。
仕事柄、親子一緒の自然体験をサポートすることが多いのですが、そんな経験の中から、夏休みにお子さんと自然の中に出かける際に意識しておきたいポイントを紹介したいと思います。
まずはおとうさんへの提案です。夏休みに子供たちとどこかへ行くことを「家族サービス」と呼ぶのはもうやめませんか。お子さんと過ごす時間はルーティンな義務ではないはずです。
次におかあさんへの提案。アウトドアはお稽古ごとと違います。自発的に楽しむもの。学ばせようという気持ちが先立つと、子供の失敗に怒ったり、先回りして手を出す、あるいは答えを示してしまいがちです。
自然遊びは五感を駆使して体験し、失敗し、悩み、それを繰り返すことで上達していきます。たとえば刃物を使えば指を切る。火を扱えばヤケドをする。いくら事前にレクチャーしても絶対に防げるものではありません。むしろ、小さなケガ、つまり失敗の積み重ねが、大きなケガを回避する身体感覚を鍛えます。失敗するということに対して親が不寛容だと、子供たちは萎縮して目標に自然体でチャレンジすることができません。
じゃあ、アナゴだったらどう見守るのか。これ以上放っておくと危ないな、というところでは声を出します。ただ、それはコラッでもダメッでもありません。ナタはこう構えたほうが使いやすいしケガもしないよとか、火はいじり回すと消えやすいからこの囲いの中でじっくり燃やそうとか。やろうとしていることを頭ごなしに否定するのでなく、子供にもわかる理屈でやんわり安全地帯へ導いていく。
当然ながら、こうした見守りができるようになるためには親御さんにもある程度の経験が必要です。夏休みというのは、じつは親がアウトドアスキルを磨く絶好の時期でもあります。小さな失敗はしたっていい。むしろ親だって失敗する姿を見せましょう。ぜひ、子供と遊ぶことを楽しみ、危険と安全の境界を自分の体で確かめてください。
自然体験の効用の一例は許容の範囲が広がること
こういう仕事をしているとときどき尋ねられるのが、自然体験の効用です。人によってその答えはいろいろだし、ありすぎて困るというのが正直なところです。いくつか挙げるとすれば、ひとつは状況の変化に敏感に気づくことでしょうか。昨日と今日で見える景色が違うとか、今まであったものがなくなっている、あるいは突然現われたとか。もうひとつ。気持ちが穏やかになる気がします。許容範囲が広がるというか、どうにもならない出来事に直面したときに不思議と冷静になれる。自然には逆らいようがないことを体験的に知っていくからだと思います。
その意味では子供も思うようにならない存在。ここは焦らず怒らず、おおらかな気持ちで付き合っていきましょう。
教えてくれた人
ホールアース自然学校・主催系執行役員
浅子智昭さん(47歳)
あさこ・ともあき 10代から国内をオートバイで旅し、米国やカムチャッカでキャンプも。静岡県富士宮市のホールアース自然学校に勤務。ガイドネームはアナゴ。
リスクもあるけれど、そもそもそれがアウトドアです
チャレンジした結果の失敗に対し親が不寛容だと、子供は萎縮しやすいしスキルも身につかない。アウトドアにはリスクが付きものという前提でどっしり構えて見守ろう。親自身も小さな失敗の積み重ねを大切にしよう。
ときには子供たちだけで行動させよう。自主性を尊重すると、大人に依存しないで物事を解決する力が生まれる。
親の役割は、ただ見守り一緒に感動すること。指導はときに成長を妨げます
子供を野外に連れだしたときの親の基本姿勢。それは一緒に体験し、感動を分かち合い、見守ること。先回り的な干渉や指導は、成長の芽を摘むことにつながりやすい。
ホールアース自然学校
1982年、家畜動物とのふれあいや自然体験を通した環境教育活動からスタート。富士山本校のほか沖縄、福島、新潟などに分校・活動拠点がある。教育旅行、企業研修、災害支援、里山再生、有機農業、野生動物対策など自然に関わる幅広い領域で活動を展開する。
住所:静岡県富士宮市下柚野165
電話:0544(66)0152
HP:https://wens.gr.jp/
※構成/鹿熊 勤 写真提供/ホールアース自然学校
(BE-PAL 2022年8月号より)