幼児野生化計画を進めるためには絶対に使いたい道具がある。それはナイフだ。ナイフは使いこなすと様々な物を生み出す創造の道具であり、時に自分の命を守ってくれる心強い道具でもある。これを正しく使いこなせてこそ真の野生児というものだ。
今回、保育園の年長さんと一緒に「自分で作った箸でお給食を食べよう!」プロジェクトをスタートさせた。制作時間は2時間強と、保育園児にとってはかなり長い作業時間がスタートした。
工程は、1膳分に切り出された竹を半分に割り、そしてただただ自分のイメージ通りの箸に削りあげていくというもの。勿論、その竹がいつも遊んでいる里山から来たこと、どれくらい長いものだったかを理解してからのスタートだ。
箸を削り出しはじめた直後は、どの子もうまく削れずに悪戦苦闘する。特に竹の内側は固く、ここを全て削るのはなかなかの根気が必要になる(削らないとカビが発生しやすくなる)。思わず手をさしのべたくなるが、ここで我慢をするのがナイフの使い方が上達するコツだ。彼らの集中が続く限りほっておくと、30分もすれば次第にナイフの切り込み角度、力のいれ具合、身体の使い方がだんだん良くなってくる。
僕はこの瞬間を「体得の時間」と呼んでいるのだが、このゾーンに子ども達が入ると、あとはちょっとしたアドバイスを投げるだけでどんどんナイフ使いが上達していく。
そうはいっても2時間は長い。時折始まる悪ふざけや、おしゃべりが、集中モードで凝り固まった手先や強ばった身体と心をリフレッシュさせてくれる。上手に発散できた彼らは、自分でまた集中モードに入っていくのが面白い。
「はせべ先生!これはどう?」
完成した箸を持って、子ども達が僕の前に行列を作り始める。自分の作品を“褒めてほしい”のだ。僕はひとりひとりの箸の良いところを丁寧に伝えていく。そうすると、子ども達の顔は緊張の顔からホワッと明るい、でも力が抜けたような顔になる。この瞬間が双方にとって最高の瞬間だ。
昨今では、ナイフを使うと前頭葉が活性化されるなど、人間の成長にとって良いとされる結果が出ている。正しい使い方を身につけて、心も身体も成長するための道具として使い続けて欲しい。
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長谷部雅一
アウトドアプロデューサー。
アウトドアイベントの企画・運営を手がける「Be-Nature School」スタッフ。人と自然をつなぐインタープリターとしても活躍中。
著作に『ネイチャーエデュケーション』1300円+税 みくに出版