2011年にファーストアルバム『さっちゃん』をリリースして以降、ひとりギターを持って全国を旅歩くことも多かった平賀さち枝さん。今年いよいよ発表する2作目のアルバムでは、新たなバンドメンバーも迎えまた新しい気持ちで臨んだそう。作品タイトルは『まっしろな気持ちで会いに行くだけ』。
今作の制作を始めるまでに彼女が立ち還りたかった“まっしろな気持ち”とは。後編は、制作をしていなかった2年間のことと、大好きな場所、これから行ってみたい島、ツアーなどの旅についてお話を伺います。
食事を自分のために作ることって精神がすごくつながっている
——平賀さんはお料理を作られるのもとても好きですよね(ブログ「キッチンについて)」)。
平賀:今までは、友達など誰かにふるまうためにだったら作れたけれど、自分のために手をかけて料理するっていうことができなかった。だから、じつは自分のために料理を作れるようになったのは、ごく最近のこと。このアルバム制作に取り掛かるようになり、ちゃんと自分の心の問題みたいなものを解決しないと、人前に出ていけないなと思ったのがきっかけです。
それまでは結構ね、人が見ていないところだと、わーーって食べちゃったりとか。女の子はたぶんそういう人も多いと思う。私も以前にそういう時期があり、自分でも「マズいなあ」と思っていて。で、2015年と2016年の2年間、作品を出さないと、こうして媒体に出る機会もなかなか無いじゃないですか? するとその間に私、10キロも太ってしまって……。このままじゃアルバムを作ったとしても、ちゃんと人と目を見て話せないな、と思っていました。だからまず、食事を自分のためにちゃんと作ることを心がけていったんです。食と精神て、本当に繋がっているから、元気じゃないと食べられないし。とにかく自分のことをきちんと整えてからじゃないと、アルバムをつくってもみんなに力を与えられるようにはなれないな、と思ったのが料理のきっかけです。
——いい作品のために、まずは生活をしっかりと、という。
平賀:はい。だから自分の生活に、とても心を配るようになりました。自分が荒れていると、音楽を通して周りの人にまでそのダメな影響が飛んでしまうと思うから。だからいつでも自分が元気でいたいな、という気持ちが強くなりました。ヨガも始めたら気持ち良くて、あとはアウトドアというか、外へ行くのがすごく好きで。散歩や知らない街に行くこと。家にいるよりは、いつもどんどん出かけて行きたいです。
——きっと、ライブやツアーなどで外に出ていくことも多いですよね。
平賀:美味しいものもその土地土地にあるので、今はもうそれを楽しみに伺っているような(笑)。いろんなところに出かけていって、何ヶ月か経ったときに「ああ、あの時の…」と楽しかったことが思い出されて、頭の中の記憶で詩や曲を書いているものが多いですよ。
——どこか、日本のなかで好きな場所って、ありますか?
平賀:去年、初めて四国へ歌いに行きましたが、瀬戸内海の海を見てすごく感動しました。海がよかった。愛媛の今治と高知、そして広島県の尾道にも行って。尾道は港町だし、海のある街がやっぱり好きみたいです。広い海は、気持ちもサーーーッと洗い流してくれる感じがしますし。
四国や沖縄、家族愛に触れた歌いに行く旅を経て。
——景色と精神が一体化している感じですね。
平賀:うん、そうかもしれないです。でも去年その四国に行く前は、すごく気持ちが鬱屈としていました。こうしてアルバムを出すつもりもまだ無かったし。でももう結局、家にいて制作もしないままだと本当にダメになってしまうから、新しい作品を作っていなかったこの2年も、数は減ったもののライブ活動だけはやめていなかった。でもこの先には何の予定もなく、ただ歌いに行くしかない時で。もうその頃のライブは、なんだか厄落としのような気分で、とにかく歌いに行かなきゃ、といろいろと地方へ足を伸ばしました。都市的なところよりも、海のほうへ。自然のある街を好んで歌いに行っていました。
——浄化されるような感覚を地方の海で得たんですね。この先、行ってみたい場所など、ありますか?
平賀:島で、ライブをしてみたいです。去年、沖縄へライブをしに行って、那覇で3箇所くらいライブをさせてもらって。その時に聞いた島……、ええと、そう!神様の島と呼ばれる久高島のことを現地で教えてもらって、行こうとしたんです。けれど、その時は悪天候で行けなかった。久高島は、いつか本当に行ってみたいです。
——あたたかくて海がある土地って、すごくエナジーチャージできますよね。その時のライブで印象的だった人とのふれあいなどあれば、ぜひ教えてください。
平賀:そういうのは、本当にたくさんあります…。みなさんがほんっとうに凄く優しくしてくださるので、いちいち泣きそうでしたし、元気になりました。現地でライブを仕切ってくださる方の家に泊めてもらうことにもなったりして、自ずとご家族とも関わることになるんですけど。皆さん、家に泊まらせてもらったりするだけの、ぽっと来ただけの存在である私に対しても、すごく愛情を注いでくれてよくしてくださる。家族の美しさを感じることばかりなんです。私ひとりで行っていたこともあって、さらに仲良く、親しくなれたのだと思います。
さっちゃんの旅と日常を支える音楽
——最近、そうやってひとりで遠くへ歌いに行ったりするときにも、音楽を聴きながら行っていましたか?
平賀:ここ1〜2年は、少し昔の、キャロル・キングとか、ジェームス・テイラーのような洋楽をたくさん聴いていました。聴いていて心が落ち着くものを求めていた感じがします。そうやってライブや外へひとりで出かける時の、電車や高速バスの中で聴きやすいような音楽たち。わーーってテンションが上がるわけではなく、だからといって暗くなるわけでもなく、ほのかな風が心に吹いてくるような音楽たちを。
——景色となじんでくれる感じがありますね。
平賀:そう。あと、歌詞が日本語だと自分にはいろんな情報が入って来すぎちゃうので、ここ1〜2年は外国の音楽を好んで聴いていたのも大きいかもしれないです。歌詞の意味はわからなくても、すごくいい。日本も素敵な音楽いっぱいあるんですけど、朝起きた瞬間に聴きたくなるのは、外国の音楽でした。でも友達のミュージシャンとかががんばっている様子は知りたいから、そういう周りの人たちの音楽はもちろんチェックしています。
——仲間、という意味ではHomecomingsさんとの共作も、友達という流れから実現したのですか?
平賀: Homecomingsさんとライブの共演で出会った時期が2013年頃で、なんとなく打ち上げで「スプリットCDを出そうか」とセカンドロイヤルというレーベルの社長さんが言ってくれていて、みんなも「いいね〜!」なんて盛り上がってはいたけれど飲みの席で言っていただけのことなので、普通だったらそこで流れてしまう。けど、本当にその社長さんが、「じゃあさっちゃんこの日までに曲を書いてください」と連絡をくださって「ああ、本当にやるんだ!」と。私も書いて送って……完成に至った、という経緯でした。打ち上げの席の話が本気で、今年のフジロック出演にまで至った、ということです。嬉しかったですね。
やっぱり大好きなのは神奈川、湘南の海
——海の話や、遠くへ出かけることといえば、平賀さんのかつての『江ノ島』という曲はすごく印象的でした。
平賀:昔から私は神奈川県への憧れがすごくあって。湘南の辺り、ですね。でもなんでだろうな……。もともとは、岩手にいた頃からサニーデイサービスの『江ノ島』っていう曲があり「ああこういう場所があるんだなあ。いつか行ってみたいなあ」って思いながら、とても好きで聴いていました。で、東京へ引っ越してきた後、20〜21歳くらいの時にひとりで初めて江ノ島へ行って。たぶんその向かう途中にユーミンを聴いたりしていたと思うんですけど。なんだか、すごくユーミンの歌が似合うなあ、と感じる街でした。サザンオールスターズももちろん好きですし、そういう自分の好きな音楽が似合う街。今もよくひとりで、鎌倉方面とかに行きます。その道中はずっと自分の好きな音楽を聴きながら電車に乗って。やっぱり海が好きなのかな。江ノ島や由比ヶ浜のあたりって、都内から一番行きやすい海辺、砂浜だから好き、ということかもしれません。
——かつては若者がカーステレオで聴いていたサザンやユーミンという音楽ですけど。今、車に乗らなくなっても、電車とかでも合うんだなあって、素敵な発見でした。
平賀:今はイヤホンで聴いているイメージだけれど、いつかは絶対に、車のカーステレオで、横浜から南へ向かうときに聴いてみたいです。ユーミンとか!ああ、すごく憧れですね。それは、ぜひいつか!
2017.9.20発売
平賀さち枝 『まっしろな気持ちで会いに行くだけ』
¥2,300+税
<TRACK LIST>
1. 春の嵐
2. 10月のひと
3. 帰っておいで
4. ホリデイ
5. My Boyfriend, see you
6. あけましておめでとう
7. 春一番の風が吹くってよ
8. 虹
9. 雨の日
10. 青い車(album ver.)
11. Lovin’you
12. 夏の朝にはアセロラジュースを
平賀さち枝
岩手県出身。2011年kitiからファーストフルアルバム「さっちゃん」、2012年ファーストミニアルバム「23歳」をリリース。2013年には、ファースト両A面シングル「ギフト/いつもふたりで」を発表。2014年にHomecomingsとのコラボシングル「白い光の朝に」をリリースし、2017年、FUJIROCK FESTIVAL「平賀さち枝とホームカミングス」で出演。楽曲提供、こども向け楽曲製作、文章、声優など様々な活動を含め、全国津々浦々、弾き語り活動中。http://www.hiragasachie.info/
文=鈴木絵美里 撮影=小倉雄一郎