炎のゆらめきを楽しみたい、そんな夜にオイルランタンを。
キャンプでは、ときに明るさよりも炎のゆらめきそのものが恋しくなる。静まり返った大自然の夜を背景に、ゆらゆらとゆらめく炎……そんな風景が、そこはかとない情緒を感じさせるからだ。
だからこそ、LEDやガス式のランタン主流の現代でも、やはりオイルランタンは捨てがたい。
扱いやすいわけではない、重量が軽いわけではない、さらに格別に明るいわけでもない。だが、そうしたデメリットを補ってあまりある魅力がオイルランタンには詰まっている。
ガラスの向こうでほのかに灯る炎は、折々に違った表情を見せ、温かさや穏やかさ、あるいはノスタルジーを与えてくれる。
だからだろう、じつは最近オイルランタンが密かなブームなのだ。
今回は、ドイツの超老舗ランタンメーカー・Hermann Nier(ハーマン・ニアー)社の『フュアハンドランタン』のレビューをしてみたい。
発売は1902年。
現在まで100年以上愛され続ける逸品のその魅力を体感すべく、さっそくフィールドへ繰り出してみた。
オシャレで、しかも大自然に負けない質実剛健さ。
用意したのは『フュアハンドベイビースペシャル 276ランタン』のシグナルイエロー。
目に鮮やかな黄色がとてもオシャレで、川岸や岩肌に無造作に置いても映える。
『フュアハンドランタン』は、他にもレッド、ブルー、グリーン、バニラなどなど、たくさんのカラーがあり、ファンにとってバリエーションを集めるのも、大きな魅力。
テントやファニチャーに合わせて選ぶのも楽しそうだ。
デザインは、 まさに“古き良きランタン”をイメージさせる形。
なんともレトロな魅力があるが、じつはこのデザイン、「ウィック」(芯)の炎で温められた空気を上昇させ、両サイドのパイプからバーナー部へ送りこみ燃焼を促すための形。機能の高さを追求した結果、生まれたデザインなのである。
風雨に強い「SUPRAX」製の耐熱ガラスを採用。
風防ガラスには、風雨に強い「SUPRAX」製の耐熱ガラスを採用。なんと風速80メートルに耐える。
「スーパー台風」レベルの強風でも消えない『フュアハンドランタン』は、過去に世界各国のさまざまな軍隊で採用された実績を持つそうだ。
オシャレで頼もしいランタン、まさにキャンプの必需品ギアである。
シンプル構造だから、慣れたらお手のもの。
使い方は、至って単純明解。
「オイル投入」→「風防ガラスを押し上げる」→「着火」で、あとは風防を元に戻すのみ。
ワンタッチとはいかないが、風防ガラスの上げ下げは、本体右部にある「シリンダーハンドル」で手軽にできる。慣れたらとても簡単だ。
火力の調節方法
炎の調整も、本体右部の火力調整ハンドルでラクラク。
火持ちがよい構造なので、仮に炎を小さくしすぎても消えにくく、焦らずゆっくりと調節できるようになっている。
初めて使う場合でも、一度で安定した火力を得られるだろう。
ただ、初回は、着火のタイミングには気をつけておきたい。
オイルを含んでいない芯に火をつけてしまうと、芯が焦げやすい。
まず先端までオイルが行き渡るように、ハンドルで短く調整し、少し待つのが肝心(10分程度)。
万が一、芯を短くしすぎて、芯の先端がオイルタンクにすべり落ちてしまっても、大丈夫。分解が可能なので、風防ガラスを上げた状態で調整ハンドルとバーナー本体を持ち、ゆっくりと左へ回せばいい。
さぁ、夜がやって来るのを待とう。
「ウィック・テクニック」で、こだわりの炎をつくりだす!
日が落ちたフィールドで、あらためて思った。
「明かりを灯す」とこと。
それは、リモコンひとつで明るくなる時代にあって、キャンパーだけが知る、贅沢な行為なのかもしれない。
実際に火をつける前に、ちょっとしたテクニックにチャレンジしようかと考えた。
なんでも愛好家は、「ウイック」(芯)を特定の形にカットして、“こだわりの炎”をつくりだす、というではないか。
聞けば、両端の角を少しハサミで切って、先端を「台形」にしているとのこと。
今回はせっかくなので、「通常」と「台形」、さらに「三角」にして火を灯し、その炎の形ついて検証してみることにした。
まずはノーマルの芯で炎を愛でる
まずは何も手を加えず着火してみる。丸みを帯びた形の炎がゆらめいた。
なんとも可愛らしいといった炎の表情で、これはこれで風情がある。
“ぽっと明かりが灯る”、まさにそんなイメージの炎になった。
芯の形を台形にしてみた
続いて、台形にカットして着火。
台形もネット上では支持者が多く、さすがは人気の形だ。美しい!
“優しげな二等辺三角形”と表現すればいいのか、その存在感がとても心地よい。
「誰もが、心に思い描く炎」とは、こういった形なのかもしれない。
芯の形を三角形にしてみた
そして最後は、ウィックを三角形にカット。
炎の形は台形に似ているが、その趣はまったく異なり、丸みを帯びず鋭く長い炎がつくりだされた。
“かっこいい”というイメージだが、火が長いので、他に比べて明かりの調節がややしづらいのが難点か。
こんなふうにして、自分だけの炎を求めるのは、楽しい。
いままで火の形など気にしたことがなかったが、それぞれに違うインスピレーションを与えてくれる。
そして、「明かりをつける」ではなく、「明かりをつくる」こと、それは現代のキャンパーにとって、特に大きな魅力だと感じた。
いい時間をもたらす不滅不朽の名品道具
オシャレで頑丈、そしてさまざまな炎を見せてくれた『フュアハンドランタン』。
フィールドで、ベランダで、部屋にいい時間をもたらす不滅不朽の名品道具。
深い愛着を感じさせてくれる、頼もしくてうれしい相棒だ。
フュアハンド|ベイビースペシャル 276ランタン概要
サイズ: 幅約15センチ×奥行き13センチ×高さ26センチ
材質: 鋼板、ドイツ製SUPRAK耐熱強化ガラス
重さ: 約530グラム
タンク容量: 340ミリリットル
使用燃料: 灯油、純良なパラフィンオイル
燃焼時間: 約20時間
文・写真=坂本 嶺