木星、土星、フォーマルハウトの三角関係
この時期の夜ふけは、通常なら一年を通じてもっとも暗い夜空といってもいいかもしれません。西の空に残っている夏の大三角を別とすれば、1等星はみなみのうお座のフォーマルハウトだけ。おうし座やオリオン座が昇ってくるのは深夜を待たないとなりません。
暗い夜空で木星が見頃を迎えています。日没後に昇って来て、ほぼ一晩中、輝いています。まわりに明るい星がないので明るさが際立ちます。
木星がいるのは、みずがめ座とうお座の間です。少し西側、やぎ座のしっぽのあたりに土星が見えます。その南にみなみうお座の一等星フォーマルハウトがあります。街明かりのある場所では、おそらくこの木星、土星、フォーマルハウトの3つしか見えないかもしれません。この三角関係が、今年の秋の夜空の目安になるでしょう。
暗い南の空に、水族の星座がひしめいている
しかし秋の星座は、明るい星は少ないものの、神話をひもといていくととても興味深い星座たちです。
みずがめ座はギリシア神話に出てくる青年ガニメデ説が有名です。大神ゼウスが酒のお酌をさせるためにさらってきた美青年です。みずがめ座に描かれている瓶には水ではなく、酒が入っているという説もあります。
みずがめ座は黄道12星座でもあり、神話でもそれなりに存在感がありますが、星座のほうは一番明るい星が3等星、線も結びにくく目立ちません。そんなみずがめ座ですが、昔は1等星をもった星座でした。フォーマルハウトをみなみのうお座と共有していたからです。
また、かなり昔の話になりますが、5000年前には冬至の時の太陽は、みずがめ座の方向にありました。歳差運動(地球の地軸の23.4度の傾きを保ったまま自転する運動)のため、地球の地軸は2万6000年周期でぐるりと方向を変えていきます。現在は、冬至の頃の太陽はいて座の方向にあります。
冬至という重要な時期に太陽が位置する星座であり、またそのころは雨がよく降ることから、古代メソポタミアでは水を注ぐ神の姿をここに描いたようです。
みなみのうお座は、ひっくり返った奇妙な格好で描かれていますが、古代ギリシアよりも昔、古代メソポタミア時代から魚として描かれている歴史の長い星座です。もともとは魚は存在せず、みずがめ座の神様が水を流していただけのようですが、それがなにゆえか分かりませんが、流れる水の中に魚が描かれるようになり、さらにはガニメデ青年の瓶から流れる水か酒を飲み込む魚に描かれるようになったようです。
星座はメソポタミア時代からギリシアへ伝わり、それが中世アラビア、ヨーロッパへと伝わっていく長い時間のなかで、尾ひれ葉鰭がついたり、まったく別の伝聞が伝わったりで、原型がよくわからないくらい変わってしまうことは、さほどめずらしくありません。
みなみのうお座の星図にしても、ガニメデ青年の瓶から流れる酒を飲んで、酔っ払ってひっくり返っている図と見えなくもありません。そんな伝承はありませんが、水族の星座たちの物語を想像してみると、暗い秋の夜空ががぜん賑やかになってくるかもしれません。
このあたりの星座はよく見ると、水瓶を持ったガニメデ青年と魚だけでなく、西側のやぎ座は下半身が魚ですし、もう少し時間が経つと昇ってくるのは、くじら座と、水にちなんだ星座が多いですね。やぎ座に関しては、メソポタミア時代にはすでにこの半ヤギ半魚の姿で描かれています。みずがめ座と同じように、やぎ座やうお座の方向に太陽が位置するのは、5000年前のメソポタミアでは冬の時期でした。この地域では冬に雨がよく降るので、みずがめ座を中心に水族の星座が作られたのではないかと考えられています。
今回は暗い夜空を強調してしまいましたが、キャンプ場などへ行けば、星座の線がたどれるはずです。ぜひ秋の星座たちの物語を想像してみてください。
構成/佐藤恵菜