便利そうだがビルトインタイプだと高額投資に…
キャンプやドライブでは、飲食物を冷やして持ち運べるだけで行動の幅がぐっと広がります。自宅近くで肉や魚を買って遠方のキャンプ場に持ち込んだり、車内で冷たい飲み物を楽しんだり、要冷蔵の名産品をお土産にしたり……。
ほんの数分間エンジンを切っただけで車内が熱くなる夏には、日常的な買い物も同様です。もしクルマに冷蔵設備があれば、スーパーで生鮮品や冷凍食品を購入した後でも寄り道が可能になります。
とはいえ冷蔵庫の設置には結構なスペースが必要なほか、ビルトインタイプだと10万円近い価格になることも。今回はキャンピングカーに冷蔵庫は必要かどうか、使い勝手はどうか解説したいと思います。
車載用冷蔵庫の種類
車内で食材を保管するためのもっとも簡単な設備は、クーラーボックスでしょう。必要なときだけ積めばよく、保冷剤や氷を併用することでかなりの保冷力を発揮します。
しかし途中で氷が溶けきるような長旅や、急きょ使用機会が生まれるようなときには、やはり冷蔵庫が圧倒的に便利です。
車載用の冷蔵庫には、大きく分けて「ビルトイン」と「ポータブル」があります。冷却方式はコンプレッサー式やペルチェ式などがありますが、冷却性能重視ならコンプレッサー式一択とも言われます。以下はすべてコンプレッサー式について述べています。
家庭用製品に使用感が近いのは、キャンピングカーなどに装備されているビルトインタイプの冷蔵庫。クルマや船舶への搭載を目的に設計されているもので、多くはDC12Vまたは24V電源に接続して使用します。
かなりの重量があり、通常は家具に組み込むなど一か所に固定します。家庭用に近い横開きと、クーラーボックスのような上開きがあります。
サイズは30リットル程度のコンパクトなものから、70リットル超の大容量まで。大型モーターホームでは140リットルを超えるものも!
もうひとつはポータブルタイプの冷蔵庫。こちらも決して軽くはありませんが、ベルトなどで持ち上げることが可能で、必要のないときはクルマから降ろしておけます。バッテリー内蔵タイプやカセットガス対応タイプなら、電源のない外出先で使うことも可能です。
サイズはビルトインより小さく、15リットルから40リットルくらい。「温冷切り替え」ができる冷温庫モデルも。
キャンピングカーでは車内に固定用のベルトがあったり、家具の中に設置できることもあり、ビルトインタイプと変わらない使用感が得られる車種もあります。
私もかつて使っていましたが、冷却性能は必要十分。ただしどうしてもサイズがコンパクトなので、同じ500ミリリットルでも背の高いペットボトルが入らなかったり、開口部が小さいために取り出しにくかったり、といったことがありました。
おひとりさま家電のブームから、手軽な卓上冷蔵庫などもありますが、車内は温度変化や振動の問題があるため専用品の使用が安心です。
現在、私が愛用しているのはキャンピングカーでは定番中の定番とも言える澤藤電機株式会社のENGEL冷蔵庫。どれくらいの収蔵力があるか、使い勝手はどうか、家庭用冷蔵庫との違いはあるかなどをご紹介します。
ENGEL冷蔵庫(SB47F-D-T)
容量40リットルのビルトインタイプで、外寸は幅40cm、高さ50cmほど。家具で隠れていますが、奥行きも50cmほどあるはずです。国内で流通している製品全体で見ると、ちょうどミドルサイズだと思います。
扉にはロック機構があり、指で押し下げないと開きません。クルマの振動などで勝手に扉が開かないよう工夫が凝らされています。
5段階の出力調節ダイヤルがあり、通常は中間の「3」で使用します。カタログ上の冷蔵温度は約5度C。
扉を開くと家庭用冷蔵庫にも似たドアポケットと……。
可動式で高さ調節のできる網棚。
そして冷却器(アイスメーカー)があります。
家庭用と少し違うのが、庫内が四角形ではないということ。背面に機械部分があるため、道路の「すみきり」のように斜めにカットされています。そのためピザ箱のような底の広いものは収蔵できません。
収蔵力は?
実際の収蔵力を見てみましょう。家庭用冷蔵庫ではひとり暮らしでも100リットルは欲しいと言われますが、その半分程度のボリュームです。
まずはドアポケット。500ミリリットルのペットボトルが4本入ります。麦茶などでよくある、650ミリリットルの太めボトルでも大丈夫。隙間にチューブタイプの調味料も何本か入りそうです。
そしてメインの冷蔵室。前述のとおり庫内は四角形ではありません。そのためもっとも効率よく使えるのは、網棚を外して奥までぎっしり詰めていく方法。
500ミリリットルのペットボトルなら優に15本は入ります。取り出しやすさは度外視していますが、意外にも収蔵力あり!
ただし現実には、飲み物だけ入れたいというシチュエーションはあまりないでしょうから網棚も使ってみます。
横置きにすると「すみきり」の部分が邪魔になり、500ミリリットルのペットボトルなら3本並べるのが限界。4本目は飛び出してしまい扉が閉まりません。
ドアポケットも合わせてペットボトル8本くらい、紙パック飲料とお惣菜が数パックといったところです。キャベツやトマトのような丸みのある野菜が加わると、途端に苦しくなるでしょう。
また、走行中のクルマは前後左右に動くので、現実的にはこのような入れ方だと大変なことになります。扉を開けた途端に中身が飛び出してくること確定。
そこで、なるべく隙間がなくなるよう300ミリリットルのミニペットボトルを駆使。大小組み合わせて庫内で転がらないようにします。
冷蔵庫に合わせて飲み物のサイズを選ぶというのもちょっと本末転倒ですが、必要な工夫です。キッチン用の滑り止めシートもいいですね。
紙パック飲料もなるべく平積みするか、隙間なく並べられるよう100円ショップのプラケースを活用。走行中はプラケースごと滑るので、ここでも滑り止めを使うとよさそうです。
最終的には500ミリリットルのペットボトル9本、300ミリリットルのミニペットボトル4本、紙パック飲料6本以上、食品トレー数パックが入りました。まだ余裕があるので、調味料やハムやチーズなど足せそうです。なお、クルマの振動で割れる可能性があることからビンを入れることは推奨されていません。
まとめると40リットルサイズ冷蔵庫の収蔵力は……
- ペットボトル飲料だけにしぼれば20本以上を保管可能
- 惣菜や加工品が中心なら2人旅の2食分くらい
- 野菜を入れるなど本格的な調理を考えるなら要サイズアップ
- 便利グッズを駆使した省スペース&振動対策が必須
冷却性能は?
冷却性能はどうでしょうか。先述のとおり5段階の出力調節が可能で、取扱説明書に使用シーンが例示されています。通常時は「3」ということになるでしょう。
- 冬季や特に気温の低いとき/霜取のとき
- 冬から春、秋から冬の気温の比較的低いとき/扉の開閉の少ないとき
- 春から夏、夏から秋のあたたかいとき/普通の状態で使用するとき
- 盛夏、特に気温が高く、湿度も高いとき/扉の開閉が多く、貯蔵品が比較的多いとき
- 食品を急速に冷やしたいとき
実際にはどれくらい冷えるのか、水道から出したばかりの生ぬるい水(24度C)を庫内に入れてみます。
ダイヤル3の場合、1時間後には18度C、3時間後には10度Cになりました。かなり下がっており、身体が冷えやすい私には十分です。ただし一般的に「冷水」と呼ばれるのは10度C以下だそうなので、人によっては物足りないかもしれません。
そのままダイヤル5にまで出力を上げると、1時間後には8度Cまで下がりました。キンキンに冷えていると言っていいでしょう。
続いて冷凍機能です。密閉されてはいませんが、冷蔵庫の一部がアイスメーカーになっています。
ダイヤル5にセットすると、1時間後には薄氷が張り、2時間後にはやや緩いですが氷になりました。十分実用できそうです。
ただしフタつき製氷皿だといつまでも固まりませんでした。走行中には水がこぼれてしまうので、あくまで停車時に製氷することになるでしょう。
消費電力は?
取扱店によると消費電力はおよそ42Wとされています。電圧は最低10V前後で稼働しますが、性能を十分に発揮するためにはDCコードのプラグ部で約12.8V以上推奨とのこと。定格電流はDC12Vで2.5A、DC24Vで1.3A。
105Ahサブバッテリー2台にソーラーパネルという私の装備の場合、あくまで体感ですが、1日中つけっぱなしで問題ありません。数日の旅行ならバッテリー残量を気にせず使えています。
おそらく走行しない日や悪天候の日が続くと電力が厳しくなってきますが、通常の「昼間は走行するか晴れた屋外に駐車し、夜は車中泊地に滞在」という使い方なら連続使用が可能だと思います。
オン・オフを繰り返すような使用方法だと庫内が結露するので、基本的には常時通電になるでしょう。周囲が静かな夜はブーンという動作音や振動が少々気になりますが、寝られないほどではありません。
出発前に外部電源で始動しておくことや、あらかじめ冷えた食材を入れることが省エネのポイントです。
搭載して後悔しない装備
旅のスタイルにもよりますが、冷蔵庫は「ないと困る」必需品というよりは、「あれば便利」なオプション品です。なければないで工夫しますが、一度使うとその便利さから手放せなくなる装備でしょう。
同じようなオプションに電子レンジがあります。こちらも「あれば便利」な贅沢品ですが、私は以前ほとんど使わずに売却したことがあります。一方の冷蔵庫は、「使用機会がない」という人はまずいないのではないでしょうか。
自炊をしない人にもおすすめです。とりわけ夏場は車内が暑くなるので、私は飲みかけの飲料、チョコレート、菓子パンなども保管しています。どれも炎天下ではクルマを少し離れているうちにダメになってしまうものです。
予算面、スペース面で余裕があるのなら、搭載することで旅が格段に快適になります。コンパクトなポータブルタイプなら2万円前後からありますから、ぜひご検討ください。