バルティスタンの王朝の栄華が残る村
ラダックの北に広がる渓谷地帯、ヌブラの西の果てに、トゥルトゥクという村があります。インドとパキスタンの間の暫定国境線からわずか10キロほどの場所にあるこの村は、2010年頃まで外国人の立ち入りは許可されていませんでした。
この一帯は、パキスタン北部までまたがるバルティスタンと呼ばれる地域で、住民のほとんどは、バルティと呼ばれるイスラーム教徒です。ラダック人に比べるとエキゾチックな顔立ちの人が多く、色とりどりの布地で髪を覆った女性たちの美しさには、思わずはっとさせられます。
このトゥルトゥクには、かつてバルティスタンを統治していたヤブゴ王朝の王族が用いていた夏の離宮の邸宅が、今も残っています。整備・改装されて現在は博物館として公開されているこの夏の離宮を、訪ねてみました。
夏の離宮といっても、建物自体はそれほど巨大なものではありません。ただ、緻密な木細工が施された吹き抜けや、ヤブゴ王朝に代々伝わる武器や装身具、タペストリーなど、往時の栄華を偲ばせるものが数多く残されていて、博物館としてもなかなか見応えがあります。
ヤブゴ王朝の末裔の老紳士に出会う
夏の離宮の博物館では、一人の老紳士に出会いました。ヤブゴ・ムハンマド・カーン・カチョさんは、ヤブゴ王朝の末裔にあたる方なのだそうです。彼が英語を交えながら説明してくれたヤブゴ王朝の成り立ちは、少なくとも7世紀以前に遡るといいます。途方もない歴史の積み重ねの一端が、この辺境の小さな村に今も残されていたことに、本当に驚かされました。